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憂「お姉ちゃん高校デビューの巻」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 03:38:24.19 ID:542jMv7p0

唯「見てー、うい」

 そう言ってお姉ちゃんが取り出したのは、色とりどりの小ビンだった。

憂「なあに、これ?」

 淡いピンクや黒のインクみたいなものが入って、

 キラキラとしたラメにかざられたいくつかのビン。

唯「お化粧品。買ってきちゃった」

憂「お化粧……」

唯「私ももう高校生だからさ、やってみたいんだ」

 お姉ちゃんはにこにこして言う。

 そう、お姉ちゃんは明日から高校生。

 お化粧くらい興味が出てもおかしくない。




 
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 03:40:59.56 ID:542jMv7p0

憂「うん、いいんじゃないかな?」

 小ビンを手に取りながら言ってみる。

 私の中学だとお化粧は校則で禁止されているから、

 お化粧をするとちょっと悪い子みたいに思えてしまう。

 でも、お姉ちゃんはもう高校生なんだよね。

唯「え、うん」

憂「うん?」

唯「だから、お化粧の仕方教えてほしいなぁって」

憂「えっ?」


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 03:43:26.10 ID:542jMv7p0
――――

 お姉ちゃんはどうやらお化粧の仕方がわからないみたい。

 お姉ちゃんの周りにお化粧をする人はいなかったと思うから、仕方ないよね。

憂「じゃあ、目とじて」

 私もお化粧のしかたはよく分からないけれど、

 一人でやるよりは安全だと思ったから、お姉ちゃんを手伝うことにした。

唯「んー」

 最初に開けたのは、まつ毛を長く見せるマスカラ。

 これぐらいはコマーシャルとかにもよく出るし、さすがに知っている。

 目を閉じたお姉ちゃんの目元に、小さな柄付きたわしみたいなブラシを横に当てる。

憂「いくよ……」

 ゆっくり上に持ち上げるように、ブラシを運ぶと。


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 03:46:01.42 ID:542jMv7p0

唯「……あれ?」

憂「なんかちょっと変だね……」

 初めてやったせいかもしれないけれど、

 CMみたいに綺麗にならない。

唯「なんかまぶたが重たい……」

憂「失敗しちゃったのかな……」

 メイク落としシートを目に当てて綺麗にしてから、もう一度。

唯「目開けてやってみる?」

 ブラシを当てようとしたところで、お姉ちゃんが言った。

憂「え……危なくない?」

唯「でもこんなイメージでしょ?」

憂「……そうだなぁ」


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 03:49:07.76 ID:542jMv7p0

 少し悩んだけれど、お姉ちゃんを綺麗にしてあげたかったから。

憂「……じゃあ、やってみる?」

唯「うん、お願い」

 お姉ちゃんは強張った顔で目を開けると、

 私をじっと見つめた。

憂「ごくり……」

 私も緊張して、唾を飲んだ。

 お姉ちゃんの瞳を決して傷つけないように、指先が震えないように。

唯「さあ来い、憂……」

 お姉ちゃんの息が揺れた。

 ちょっと変な気持ちになったりもしながら、再度目元にブラシを近づけた。


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 03:51:30.19 ID:542jMv7p0

 お姉ちゃんがまばたきしたあと、まぶたにブラシをあてる。

 そして先ほどと同じように、手前に曲線を描きながら撫で上げる。

唯「……どう?」

憂「……どうだろう」

 私はよくわからなくて、とりあえず鏡を取りだした。

唯「あ、こんな感じでしょ」

 鏡を覗きこんで、お姉ちゃんは言う。

 こんな感じなのだろうか。

 なんだか、お姉ちゃんらしくない。

唯「憂、もう片目もお願い」

憂「う、うん」


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 03:54:15.18 ID:542jMv7p0

 言われるまま、だけどやっぱり緊張しながら、

 左のまつ毛にもマスカラを塗った。

唯「はふぅ」

 それが終わると、お姉ちゃんは力が抜けたように溜め息を吐いた。

唯「どう? お姉ちゃんキレイ?」

憂「……」

 いつもよりまつ毛の長いお姉ちゃんは、その分きれいに見えた。

唯「憂?」

憂「う、うん。キレイだよ」

唯「んふふー」

 お姉ちゃんは満足げに微笑む。

憂「っ……」


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 03:56:40.92 ID:542jMv7p0

唯「じゃ、次はこれね」

 胸をきゅんとときめかせた私に気付かずに、

 お姉ちゃんは次のお化粧グッズのフタを開く。

憂「それは?」

 淡いピンク色のジェルみたいなものが入った小ビンで、

 私はなんだか分からなかった。

唯「これはなんだっけ……グロスっていうんだよ」

憂「グロス?」

唯「うん、口紅みたいなやつだって」

憂「ふーん……」

 口紅にはとても見えないけれど、とにかくくちびるに塗るということだろう。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 03:59:21.61 ID:542jMv7p0

唯「じゃ憂、塗って」

憂「え?」

唯「ん」

 お姉ちゃんは目を閉じて、くちびるを突き出す。

 いつもと違うお姉ちゃんの顔。

憂「……自分でできるでしょ?」

唯「でも初めてだから、憂にやってほしいんだよ」

憂「……もう」

唯「はい、お願い」

 お姉ちゃんにグロスを手渡された。

憂「これどうやって使うの?」


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:02:05.87 ID:542jMv7p0

唯「指にちょびっとつけて、くちびるに塗るらしいんだけど……」

憂「なるほど……」

 蓋を置いて、ビンの口に指を差し込む。

 指先についたジェル状の感触。

憂「あ、付けすぎたかな?」

唯「んー」

 お姉ちゃんは私の指の上で山盛りになったグロスを見て、顔をしかめた。

唯「あ、じゃあこれちょっとちょうだい」

 その半分ぐらいをお姉ちゃんは指先でかすめとった。

唯「はい憂、くちびるンーッてして」

憂「……んー」

 自分が何をしてるのか、だんだん分からなくなってきた。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:05:04.06 ID:542jMv7p0

 お姉ちゃんの指が、私のくちびるに触れる。

憂「っ……」

 思わず体が後ずさりしそうになった。

 くちびるを触るぐらい、お姉ちゃんにはいつもやってること。

 お姉ちゃんだって、時々わたしのくちびるを拭く。

 なのに、こんなことで。

唯「憂、どうかした?」

憂「な、なんでもないけどっ」

 あぶなく、床にグロスをなびってしまうところだった。

 さっきから私はおかしなことばかり考えている。

 お姉ちゃんの前でこんなふうじゃだめだ。

唯「はい、じっとしててね。ちゃんと塗ってあげるから」


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:08:03.00 ID:542jMv7p0

 お姉ちゃんは左手で私を小さな子みたいによしよしと撫でると、

 右手でくちびるをすりすり擦る。

唯「おー、きれいだよ憂」

憂「んっ……」

 心地よくて、目を閉じる。

 くちびるに触れるお姉ちゃんの指の感触に集中できる。

憂「はぁ……」

 お姉ちゃんの指がくちびるを這いまわる。

 しゃぶりつかずにいられるのは奇跡みたいなものだ。

 ただ、そのかわりに。

憂「お、おねえちゃん……」

唯「んー?」

憂「わ、わたしも……ぬってあげるっ」


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:11:00.81 ID:542jMv7p0

 震える指をお姉ちゃんに向ける。

 マスカラを塗るときは抑えられた震えがもう止められない。

唯「んむんむ、お願いね」

 お姉ちゃんは無邪気にくちびるを向けてきた。

 そのままキスしてしまってもよかったかもしれない。

 どうせ、そのうち抑えきれなくなるのは同じなのだから。

憂「おねえちゃん、すっごく綺麗……」

唯「えへへ。憂もキレイだよ!」

 お姉ちゃんのくちびるに触れた。

 グロスに濡れた指先で押し込むように、その感触をたしかめて。

 艶のあるグロスを厚ぼったく塗り広げていく。

唯「んは、くすぐった……」

 お姉ちゃんも、きっと理由は違うだろうけれど、体を震わせた。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:14:00.50 ID:542jMv7p0

 お姉ちゃんのくちびるがぷるぷると桜色に光る。

 すぐにでもそこにむしゃぶりつきたいのを、私はなんとか抑えた。

 まだお姉ちゃんが私のくちびるを撫でていたから。

 そうされているうちは、まだ私はお姉ちゃんに愛されていられるから。

唯「んむ、ん」

 お姉ちゃんが何か言いたげにくちびるをもごつかせた。

唯「これぐらいで、いいよね」

 お姉ちゃんはもうグロスを塗るのに満足してしまったみたいだ。

 私のほうは、よくわからない。

 とにかく目に映るお姉ちゃんはきれいで、愛しくて、

 なんだか悪い感情を際限なく呼び起こしてきて、わたしをおかしくしてくる。

唯「うい? ……ねぇ、憂」


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:17:14.65 ID:542jMv7p0

 お姉ちゃんが呼んでいるのはわかったけれど、私は返事をしなかった。

 それとも返事ができなかったのか、どっちでもいいけれど。

憂「知ってる? お姉ちゃん」

 私は離れようとしたお姉ちゃんの手を掴んで、

 その指に頬をすりつけるようにしながら言った。

憂「お化粧ってね……人を変えるんだよ」

唯「う、うい……」

 お姉ちゃんは少し戸惑った。

 私のしようとすることをもう分かっているのかもしれない。

 だけど、強く抵抗しようとはしなかった。

憂「お姉ちゃん。キスするよ?」

 掴んだ手が、びくりと跳ねた。

唯「そ……」


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:20:07.21 ID:542jMv7p0

憂「うん……?」

 わたしは、できる限りやさしく微笑んでみた。

 でもきっと、強張って怖い顔をしていたと思う。

唯「んっと……ど、どうして」

憂「お姉ちゃんが好きだから」

 嘘だ。

 お姉ちゃんのことを、まじめに恋愛対象に置いたことは一度もない。

 わたしは、今の私がただ、お姉ちゃんを可愛いと思ってるから、キスしたいだけ。

憂「ずっと好きだったんだよ? こんなふうに、くちびる……」

 お姉ちゃんのくちびるをそっと押す。

 ふわふわしてて、気持ちよかった。

憂「さわりあいっこしてたら、我慢できなくなるの、しょうがないじゃん」


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:23:31.17 ID:542jMv7p0

 子供みたいにだだをこねて、自分を正当化する。

唯「う、うん……ごめん」

 お姉ちゃんもわけがわからなくなってるんだろう。

 わたしの言い分を素直に受け取った。

憂「じゃあ、キス……」

唯「……うん、いいよ」

 おそるおそるという感じでお姉ちゃんが頷く。

唯「あ、あのさっ」

憂「……なに?」

唯「これって、カウントするの?」

 あわてたふうに、お姉ちゃんは言った。

 潤んだ瞳で私を見つめて、自分が何を言っているかもよくわからないんだろう。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:25:15.04 ID:sFyGqgNJ0

ノーカン…!ノーカン…!


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:26:52.43 ID:542jMv7p0

 私は嘘をついた。

 お姉ちゃんは、そんな私の嘘を踏みにじった。

 わたしとお姉ちゃんの、最低比べは……

 ――私が勝たなきゃいけなかった。

憂「お姉ちゃんのこと、好きって言ったよね?」

唯「うん……」

憂「ずっとずっと、どれだけ好きだったか、わかる!?」

 怒ってなんかいないのに、声を荒げる。

 お姉ちゃんに怒鳴るのは初めてかもしれなかった。

唯「ひっ、憂……」

憂「カウントするのー? なんて、ふざけないでよ!」

唯「ご、ごめんね、そんなつもりじゃ……」


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:30:07.15 ID:542jMv7p0

唯「許して、憂……」

憂「許さない」

 毅然として言いつける。

 けれど胸の中は、ドキドキと緊張でいっぱいだった。

唯「お願い……」

 お姉ちゃんが目を伏せる。

憂「……だったら、キスしてよ」

唯「……うん」

 お姉ちゃんが息を吐く。

 グロスを塗られたくちびるはいつもより潤っている感じがして、

 私たちをいくぶんか素直にキスへといざなっているようだった。

憂「わたしからも、お返しするから……」

唯「……うん」


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:33:17.87 ID:WwyP+2gy0

こ、これが高校デビュー…


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:33:25.47 ID:542jMv7p0

 お姉ちゃんは私をじっと見つめると、

 さっきグロスをつけてもらったときみたいにくちびるを向けた。

唯「憂、目とじて……」

憂「……ん」

 本当にしてくれるんだ。

 なんだか夢見心地で、ぜんぜん実感がついてこない。

唯「憂……わたしのこと、好きなんだね?」

憂「うん、好きだよ」

 反射的に答える。

 お姉ちゃんのことは好き。

 恋人としてではないけれど、キスならしたいって思う。

 それが好きって気持ちじゃ、だめだろうか。


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:36:04.08 ID:542jMv7p0

唯「じゃあ……がんばるから、ねっ」

 胸がきゅんとしたのか、

 それともずきんと痛んだのか。

 一瞬だけそんな感覚があって、すぐにキスへの願望に塗り固められた。

唯「……いくよ」

 私の首筋にお姉ちゃんの手が置かれた。

 目をつぶって何も見えない中で、お姉ちゃんがすっと近付いたのがわかる。

唯「……ふー」

 そして、深呼吸。

 お姉ちゃんも緊張してるんだろう。

 血の繋がった妹に迫られてキスするんだから、当然だと思う。

 わたしだってドキドキしてる。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:39:34.03 ID:542jMv7p0

唯「……」

 何も言わずにお姉ちゃんが近づいて、ぴとっと鼻がくっつく。

 真正面から鼻をぶつけて、むりやりくちびるを合わせようとするお姉ちゃん。

憂「ん、……」

 なんか違うよ、お姉ちゃん。

 私は首をちょっとかたむけて、お姉ちゃんのくちびるを誘いこむ。

唯「んぶっ」

憂「っ」

 少し倒れ込むように、お姉ちゃんのくちびるが襲いかかってきた。

 鼻の下あたりに湿った感触がして、即座に固い歯がごつんとぶつかる。

憂「い、いたた……」

唯「ごめん、うい大丈夫?」


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:43:31.17 ID:542jMv7p0

 お姉ちゃんが離れてしまう。

 手首はなんとか掴まえたままだけれど、

 くちびるは遠くに。

憂「お、おねえちゃん……」

唯「で、でも、もうキスしたよね?」

 お姉ちゃんはいそいそ笑ってごまかした。

 こんな状況は早く終わらせてしまえというくらいに。

 お姉ちゃんの手が首筋を離れて、頭をぽんぽんと撫でる。

 姉が妹によくそうするように、落ちつかせるように撫でてくれる。

 その触れ方が、今日だけは苛立った。

憂「……お姉ちゃん」

唯「うん、なあに憂?」

憂「……お姉ちゃんが悪いんだよ」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:44:52.07 ID:542jMv7p0

唯「えっ……」

 後ろに回っていたお姉ちゃんのもう片方の手を掴んで、

 そのまま無理矢理抱きついた。

唯「い、いたたたたっ!」

 お姉ちゃんの手をひねり上げて、顔をいっきに近づける。

 苦痛にゆがんだ表情はすごく苦しそうだった。

憂「おねえちゃん、あんなキスじゃ忘れちゃうもん……」

 お姉ちゃんの呼吸が焦っている。

 私も心臓が跳ねまわって、うまく呼吸ができなかった。

唯「う、ういっ……」

 化粧もして頬も赤くなって、魅惑的な顔をしたお姉ちゃんは、

 息も絶え絶えに私の名前を呼ぶ。


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:47:06.79 ID:542jMv7p0

唯「ま、待ってよ。落ちついて……」

憂「私は落ち着いてるよ。焦ってるのはお姉ちゃんでしょ?」

唯「どっちでもいいから、ちょっと待ってよ! 痛いんだからっ!」

 お姉ちゃんは叫び声を振り絞る。

 驚いて力が抜けた隙に、お姉ちゃんは私の手をねじって、振りほどいた。

唯「ねぇ、憂っ」

 逃がすものか。

 お姉ちゃんに抱きついたままの格好で床に向かって飛びこむ。

唯「きゃあっ!?」

憂「うっ、つぅ……」

 倒れ込んだ瞬間、お姉ちゃんとおでこがぶつかる。

 頭の割れそうな痛みが襲って、夕食を吐き戻しそうになる。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:50:05.31 ID:542jMv7p0

 どうにかこらえて、お姉ちゃんに覆いかぶさる。

 体重をかけ、手指を絡ませて、肘で腕を押さえつける。

憂「は、はぁっ……」

 お姉ちゃんは動かなかった。

 床に押し倒したままのお姉ちゃんの体は重たくて、力がすっかり抜けていた。

憂「おねえ、ちゃん……?」

唯「……」

 どうやら、お姉ちゃんは気絶してしまったみたいだ。

 目を閉じると、長いまつ毛がはっきりわかった。

 ぼんやりと開いた口元は濡れて、

 ゆったりとした寝息とともに、森に咲いている花のような匂いを漂わせている。

憂「あ……」


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:53:12.35 ID:542jMv7p0

 その姿を見て、その匂いを感じて、

 私が思ったのは、お姉ちゃんが無抵抗だということだけだった。

憂「……はぁっ」

 ひざまずいて、お姉ちゃんを抱き起こす。

 くったりと頭が垂れて、首筋があらわになる。

憂「んーっ……」

 白い首にくちびるを押し当てる。

 グロスをこすりつけて落としていく。

 お姉ちゃんの首筋に薄い桃色が引かれていく。

唯「ふあ……」

 お姉ちゃんが微かに反応する。


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:56:05.66 ID:542jMv7p0

憂「……」

 赤ちゃんにおっぱいを飲ませるみたいにお姉ちゃんの頭を片手で抱え上げる。

 口から吹いてくる生温かい風が心地よい。

憂「は、ぁ……」

 一度、お姉ちゃんを胸に抱き寄せた。

 私の心臓の音が聞こえるといいな。

 この早いリズムが、お姉ちゃんへの愛しさだよ。

憂「……好きだよ、お姉ちゃん」

唯「……」

 温もりを離した。

 今度はそっと、おでこをくっつけた。

憂「おねえちゃん……」


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 04:59:22.25 ID:542jMv7p0

 鼻先をかわし、くちびるは少し引き、

憂「……っ」

 首の後ろから手のひらで抱えて、眠れるお姉ちゃんにキスをした。

 ふわっ、とお姉ちゃんに包みこまれる。

 意志の無いくちびるが吸いついてくる。

 幸せな感覚だった。

憂「ん……んっ」

 お姉ちゃんをさらに寄せて、くちびるを深く押し付け合う。

 とつぜん頭の中が真っ白になって、床に崩れ落ちそうになる。

 なんとか姿勢を保って、くちびるを離した。

憂「……」

 大好きなお姉ちゃんとのキス。

 想像していた通りの、最高のキスだった。


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 05:02:15.03 ID:542jMv7p0

 もう我慢できない。

 ちょっと息を吸って、またくちびるに襲いかかる。

憂「ん、ちゅっ……ちゅ」

 くちびるを押し付けては離れ、押し付けては離れると、

 耳を刺すような高い水音がした。

 お姉ちゃんは反応しない。

 わたしは何かのたがが外れてしまいそうなくらい、体中を感覚がめぐるのに。

憂「お姉ちゃん……っちゅ、ちゅっ」

 お姉ちゃんに起きてほしい。

 一緒にこのキスの感触を楽しみたい。

 それがどういう事態を意味するのかもわからないで、

 私はそんなことを思った。


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 05:04:47.46 ID:542jMv7p0

憂「……」

 私は脇に落ちていたメイク落としのシートを引き出した。

 お姉ちゃんのくちびるを拭いて、くるむ。

 もう1枚出して、まぶたをそっと擦る。

 ぴく、ぴく、とお姉ちゃんが震える。

 お姉ちゃんは化粧をはがされて、いつものとおりの顔になった。

 いつものお姉ちゃん、いつもの寝顔。

憂「……おねえちゃん」

 私はおでこをくっつけて、さっきのように口づける。

 メイク落としのせいで、さっぱりした感触になっていた。

憂「起きて、お姉ちゃん……ん」

 私は、またキスを繰り返す。

唯「う、ぅ」


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 05:07:22.28 ID:542jMv7p0

憂「ちゅっ。ちゅ、ちゅ」

唯「ん、うー」

 お姉ちゃんは私のキスを嫌がるように顔をそむけた。

憂「おねえちゃんっ……」

 それでも追いかけてキスを続ける。

 お姉ちゃんは私のキスで目を覚まそうとしている。

 まるでおとぎ話のお姫様みたいだ。

 これでお姉ちゃんが私のキスで目を覚ましたら、私はお姉ちゃんの王子様なのかな。

憂「んー……」

 何度もキスをしているせいで、首が疲れてくる。

 お姉ちゃんを抱きしめて顔をくっつけて、

 くちびるを突き出したり引っ込めたり、ほとんどくちびるを押すだけのキスを続ける。


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 05:10:13.44 ID:542jMv7p0

唯「ん、んーっ」

 お姉ちゃんがうめいて、肩をゆすった。

憂「んむ、ちゅ、ちゅ」

唯「ん……うい?」

 名前を呼ばれて目を開けると、お姉ちゃんが大きな瞳で私を見ていた。

憂「……ちゅ、ちゅ」

唯「っん、むぅっ!」

 お姉ちゃんは私の肩を掴んで引きはがした。

 そういえば、お姉ちゃんをつかまえておくのを忘れていた。

唯「う、憂……いま、き、き、きき」

 今更しどろもどろになるお姉ちゃん。

 わたしが何回キスしたか教えてあげよっか?

 私も数えてないんだけどね。


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 05:13:10.51 ID:542jMv7p0

憂「……えへへ。お姉ちゃんとちゅーするの、気持ちよかった」

 私は胸の痛みをごまかすように笑顔を作った。

唯「憂……」

 お姉ちゃんは呆然としたような顔をして、しばらく息を止めた。

 そのうち、ゆっくりとため息が漏れて、私の頬を撫でていった。

唯「ほんとに……お姉ちゃんのこと好きなんだね」

憂「うん……」

 私が頷くと、お姉ちゃんは薄く微笑んだ。

 そしてまた、私の頭を撫でた。

唯「……うれしい」


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 05:16:19.64 ID:542jMv7p0

 お姉ちゃんが深く息を吸う。

唯「私もね、憂のこと好きだったんだ」

 背中に手が置かれて、私はそっと抱きしめられた。

唯「だから、……うーんとね。もう、こうなっちゃった以上」

唯「憂と付き合っても、いいよね?」

 その質問がどこに向けられたかはわからない。

 お姉ちゃんは私をじっと見つめて、嬉しそうににこにこしていた。

憂「……うん」

 胸を絞ったのは、ときめきか罪悪感かわからないけれど、

 私は、喜びに任せて頷いた。


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 05:19:05.76 ID:542jMv7p0
――――

 その翌朝。

 お姉ちゃんは結局、やたら慌ててお化粧をしないまま学校に行った。

 中学校から帰ってくると、台所のゴミ箱に買ったばかりのお化粧品が捨てられていたので、

 お化粧をするのは諦めたんだと思う。

 お化粧をしたお姉ちゃんは確かに綺麗だったけど、

 ちょっと似合ってもいなかったからそれでいいんだと思う。

 そのかわり、お姉ちゃんは高校で部活動を始めた。

 なんだかんだでお姉ちゃんの高校デビューは成功したみたいで、

 毎日楽しそうに笑っている。

 だけど、そんなお姉ちゃんを見ていると、

 ときどき急に悲しくなるのは、どうしてなんだろう。


  おしまい


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 06:36:50.06 ID:3rzwPYLX0

おわり・・・だと・・・


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/24(金) 07:07:07.60 ID:zteD84ixO

良い読み味だった
おつー




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(ブラック戦士)


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