1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:05:16.94 ID:aoXCoh4M0
ちなつ「ねえねえ、あかりちゃん」ツンツン
あかり「なあに?」
ちなつ「好きだよ」
あかり「うん、あかりもだよ!」
そう、確かこんな感じ。
あかりちゃんはいっつも笑顔でそう答えてくれていたのに。
ちなつ「ねえねえ、あかりちゃん」ツンツン
あかり「なあに?」
ちなつ「好きだよ」
あかり「……」カアッ
あかり「あ、あかり、お茶淹れてくるねっ!」
ちなつ「……」
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:06:16.67 ID:aoXCoh4M0
◆
あかりちゃんと、いわゆるコイビト関係になったのはつい最近のことだったりする。
それまでの経緯は置いておくとして、その関係になった直後から、あかりちゃんの
私に対する態度が今までとは一変してしまった。
友達としてあかりちゃんと接しているときは、「好きだよ」と言えばちゃんと
「あかりも大好き」と答えてくれていたのに、あかりちゃんの恋人として接するように
なると、途端にその言葉がなくなった。
ちなつ「……」
あかり「お茶お茶♪」
ちなつ「……」
それ以外は大して変わりはしていないのに。
正直、不満だ。
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:06:48.65 ID:aoXCoh4M0
ちなつ「……あかりちゃん」
あかり「あ、ちなつちゃん、お茶お替りいる?」
ちなつ「好き」
あかり「えっ!?」
ちなつ「好きだよ、あかりちゃん」
これ以上ないってほどに真剣な顔をして、言ってみる。
あかりちゃんはタコみたいに顔を真っ赤にして後ずさった。
お互いの気持ちを伝え合ったあとなのにどうして友達として付き合っていたときよりも
こんなに狼狽してるんだろう。
まあ、可愛いのは可愛いんだけどね。
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:07:27.41 ID:aoXCoh4M0
ちなつ「あかりちゃん」
ぐっと、あかりちゃんに近付く。
あかりちゃんの手に触れてみると、少しだけ震えていた。
あかり「ちなつちゃ……」
ちなつ「あかりちゃんも、私のこと好きでしょ?」
あかり「そ、それはその……」
目を閉じて、顔を近付ける。
あかりちゃんの吐息を近くに感じたとき――
ガチャッ
京子「やっほー!ちなつちゃんにあかりー!」
結衣「おいこらうるさい」
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:08:13.85 ID:aoXCoh4M0
うん、わかってた。
邪魔が入るってことはすごくよくわかっていたけど。
ちなつ「ちょっと京子先輩!」
京子「ほえー?」
結衣「あはは、ごめんねちなつちゃん……あと、あかりも」
そう言い掛けた結衣先輩が固まった。
あかりちゃんは急須を持ったまま、ぷるぷる震えている。
もちろん持ったままだからその中からぽとぽとお茶がこぼれているわけで。
結衣「あかりー!?」
京子「あちゃー、こりゃ大惨事だ」
いや大惨事言う前になんとかしましょうよ。
心の中で突っ込みつつ、はあ、と溜息を吐いた私も大概だろうけど。
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:08:54.63 ID:aoXCoh4M0
結衣「あかり、しっかりしろあかり!」
あかり「あ、ゆい、ちゃん……」
京子「大丈夫かー?」
あかり「う、うん、なんとか生きてるよ……」
京子先輩がぽんぽんっと頭を叩くと、あかりちゃんはほうっと肩から力を抜いた。
そして自分のしでかしたことに焦って慌てて布巾を探し始める。
ちなつ「……」
私はもう一度、密かに溜息を吐いてしまった。
結衣先輩たちにはいつもどおりなのに、どうして私だけあんなふうになっちゃうのかなあ。
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:09:30.07 ID:aoXCoh4M0
あかりちゃんの頬の温もりをてのひらに残したまま、私は思う。
恋人だからって、色々急ぐことはないってわかってはいるし、焦ったらよけいに
空回りしちゃうことも知ってるけど、もうそろそろキスくらいはさせてくれても
いいんじゃないだろうか。
好きとも言ってくれないあかりちゃんに、そんなことを求めることがそもそもの
間違いな気もしないことはないわけだけど、それならせめて、前みたいに好きって
ちゃんと伝えてくれてもいいのになあって思ってしまうのは、仕方ないことだ。
結衣「ちなつちゃんも、手伝ってくれる?」
ちなつ「あ、はいーっ」
まあ、今はそんなこと考えてても仕方無いや。
まずは部屋のあちこちにこぼれはじめたお茶をなんとかしなくちゃね。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:10:02.58 ID:aoXCoh4M0
―――――
―――――
少し暗くなった帰り道。
結衣先輩たちは、気を利かせてくれて最近では一緒に帰ることはなくなってしまっていた。
少し寂しいけど、ありがたい。結衣先輩は今でも私の憧れだし、あんなふうに
かっこよく、優しく、あかりちゃんの隣にいられたらいいなあって思う。
京子先輩でさえメロメロにしちゃうほどなんだから、結衣先輩は。
あかり「ち、ちなつちゃん……!」
ちなつ「どうしたの?」
突然、並んで歩いていたあかりちゃんがぱたりと立ち止まった。
つられて立ち止まって、振り返る。
あかり「今日はその、ごめんね……」
ちなつ「いいよ、べつに」
もうすっかり慣れちゃったし。
心の中で付け足すと、あかりちゃんは「怒ってない?」と言うように不安そうな顔で
私を見てくるので、「ちょっとだけ残念だったけど」と口に出してみた。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:10:31.92 ID:aoXCoh4M0
あかり「うっ……」
ちなつ「したかったなあ」
あかり「うぅっ……」
ちなつ「今からもっかい、やっちゃう?」
運がいいことに、周囲にはクラスメイトの姿はおろか、誰の姿も見えない。
キスするには絶好のチャンス。
あかり「や、やるって……?」
ちなつ「わかってるでしょ」
じりっ
あかりちゃんに一歩、近付いた。さっきのように後ずさりはしないものの、
明らかにあかりちゃんの身体が強張った。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:10:57.35 ID:aoXCoh4M0
ちなつ「……」
それを見て、思わず私は噴出してしまった。
可愛いんだから、もう。
あかりちゃんの色んな表情を見るたびに、私は嬉しくなって
どんなことでもどうしても許せてしまう。
あかり「ちなつちゃん……?」
ちなつ「ごめんね、冗談だよ。ほら、帰ろ」
あかり「う、うん……」
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:11:30.25 ID:aoXCoh4M0
◆
ともこ「ちーなつっ」
がたんっと音がして、ずっしりと体重がかけられる。
お姉ちゃんが自分の年齢も身体のことも考えずに私に抱きついてきているのだ。
ちなつ「どうしたの、お姉ちゃん?」
ともこ「なんでもない……」
ちなつ「せっかく電話とにらめっこしてたのに」
ともこ「あかりちゃんに電話?」
こくっと頷いた。
お姉ちゃんが「ふーん」と言って私から離れる。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:12:19.31 ID:aoXCoh4M0
さっきからずっと、あかりちゃんに電話するべきかしないべきかを迷って
文字通りにらめっこしていたから、目も疲れて肩もこっていた。
うーんと伸びをしてお姉ちゃんのほうに振り向く。
ともこ「ちなつのお布団……」
そしてぎょっとした。
しきっぱなしの布団の上にお姉ちゃんが座り込んで。
ちなつ「ちょっとお姉ちゃん、なにやってるの!?」
ともこ「寂しくってちなつの匂いを」
お姉ちゃん、妹属性なんてあったっけ。
そんなことを考えつつ、お姉ちゃんに「やめてよー」と駆け寄った。
ともこ「あかりちゃんにならいいの?」
ちなつ「えっ……」
それはどうだろう。
あかりちゃんが私の匂い……うん、悪くないかも。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:12:49.86 ID:aoXCoh4M0
ともこ「ちなつの変態」
ちなつ「お姉ちゃんには言われたくないよ」
ともこ「私はいいもん」
そう言いながら、お姉ちゃんは突然私にぐいっと腕を伸ばしてきた。
それに掴まっていつの間にかお姉ちゃんにぎゅっと抱き締められていた。
ごろんとお姉ちゃんが寝転ぶから、私も必然的に布団の上に転がった、お姉ちゃんの腕の中のまま。
ちなつ「どうしたの?」
ともこ「ううん……」
首を振り、お姉ちゃんは「お人形さんみたいね、ちなつ」と呟いた。
その言葉を聞いたのは久しぶりで。
ふと顔を上げてみると、お姉ちゃんの目許は少し腫れていた。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:13:16.01 ID:aoXCoh4M0
小さい頃、私はよくこんなふうにお姉ちゃんに抱き締められた。
そのたびにお姉ちゃんは「お人形さんみたいね」と変なことを言って。
小さいながらも、お姉ちゃんがそうすることで安心してくれることは知っていたから、
そのときだけはじっとお姉ちゃんの腕の中で丸まってあげていた。
ちなつ「どうしたの?」
もう一度、訊ねた。
お姉ちゃんが逆に「どうして?」と訊ね返してくる。
ちなつ「だって、お姉ちゃんがこんなふうにしてくるのは落ち込んでるときでしょ」
ともこ「わかったようなこと言っちゃって」
ちなつ「恋すれば変わるもんだよ」
ともこ「嫌味?」
ちなつ「だからお姉ちゃんも変われるはずだよ」
ともこ「……だといいんだけどなあ」
そう言いながら、お姉ちゃんがふふっと笑った。
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:13:44.37 ID:aoXCoh4M0
まあそうだよね。
いつからか知らないけど、お姉ちゃんがあかりちゃんのお姉さんを好きになったのは
きっと随分と前のことで。
ずっと一緒にいるからなのかも知れないけど、お姉ちゃんが変わったような気はちっともしない。
私は今のままのお姉ちゃんでも充分可愛いって思うんだけど。
ともこ「あかりちゃんと上手くいってない?」
突然、お姉ちゃんが話題を変えてきた。
あまりにも唐突で、私が「え?」と聞き返すと、「だって」と笑った。
ともこ「赤座さんがそんなふうに言ってたの」
赤座さんって、あかりちゃんのお姉さんのことで。
確かに私のお姉ちゃんが知っているようにあかりちゃんのお姉さんも私たちのことを
知ってはいるだろうけど。
ちなつ「上手くいってないというか……」
ごにょごにょと消え入るような声で言った。
私もあかりちゃんも、今のままでもいいって思っているはずだけど。私は実際、
心の奥ではもう少し進みたいとも思っているし、それにあかりちゃんが好きって
言ってくれなくなったのは大問題だから、端から見れば上手くいってないのかも。
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:15:15.25 ID:aoXCoh4M0
ともこ「そっか……」
ちなつ「うん……」
ともこ「私も、よくわからないの」
きょとん、とお姉ちゃんを見上げた。
今日のお姉ちゃんはなんでも突然で、やっぱり何かあったことは確実なんだろうけど。
けどそれは、あかりちゃんのお姉さんに関することなんだろうなということはなんとなく
わかってしまった。
ともこ「ちゃんと前に進めてるはずなのに、前に進むたびに不安になっちゃうっていうか」
ちなつ「……うん」
ともこ「それに、いつもあの人はあかりちゃんのことばっかり話すし……」
ちなつ「お姉ちゃんがヤキモチなんて珍しいね」
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:16:15.59 ID:aoXCoh4M0
ともこ「ち、違うけど!そんなんじゃないよ!あかりちゃんは私にとっても大切な妹みたいなもので」
ちなつ「……ふーん」
お姉ちゃんは「でも」と腕の力を強くした。
妬いちゃってるのかも。
弱弱しい声で、お姉ちゃんがそう言う。吉川家の血なのか、恋多き私とお姉ちゃんだけど、
お姉ちゃんがこんなふうに誰かのことで一喜一憂しているのって初めて見た気がする。
ちなつ「別にそれでもいいんじゃない?本気ってことでしょ?」
ともこ「そういわれるとちょっと恥ずかしいなあなんて……!」カアッ
ちなつ「……」
ともこ「そんな照れられても、とか思ったでしょ」
ちなつ「思った」
ともこ「いいもん、べつに」
拗ねたように唇を尖らせながら、お姉ちゃんは「そろそろ寝よっか」と私を離して
立ち上がった。
少しは元気になってくれたらしい。そのことにほっとしつつ、私もお姉ちゃんと同じくらい、
誰かのこと――あかりちゃんのことが好きなんだなあと思った。
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:26:42.70 ID:aoXCoh4M0
あかりちゃんのこと一つで、どんな小さなことででも嬉しくなったり悲しくなったりしちゃって。
これってきっと、本当に好きってことで、だとしたら私はすごく幸せだって思う。
好きな子と両想いなんだから。
でもなあ。
わかっているからこそ、あかりちゃんが気持ちを伝えてくれなくなったことが
少し不安で、怖くなってしまう。
ともこ「ちなつはもう少し起きとく?」
ちなつ「んー」
ともこ「あ、あかりちゃんに電話するのか」
ちなつ「……今日はいいや」
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:36:31.43 ID:aoXCoh4M0
ともこ「あら、どうして?」
お姉ちゃんが不思議そうに首をかしげ、
「ちゃんと出てくよ!立ち聞きなんてことはしないから安心して!」
といやに力説するのを苦笑して聞き流す。
ちなつ「とりあえず、今日はもういいの」
ともこ「ほんとに?」
ちなつ「……うん」
お姉ちゃんが元気になった代わりに次は私に色々と降りかかってきてしまった。
あかりちゃんに話したいことは沢山ある。
好きって、そう言ってあかりちゃんを困らせたいとも思うけど。
その後に返って来るのが別の返事だとわかっていては、なんとなく携帯を開くことが
出来なかった。
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:46:22.91 ID:aoXCoh4M0
◆
翌朝、目が覚めたのはいつもよりも早い時間だった。
適当にご飯をかきこんで朝の身支度をすると、早々に家を出る。
もう真冬で肌寒いどころではなく、コートを着込んでマフラーをしっかり巻いたって
震えは止まらない。
それなのに、あかりちゃんはもうそこにいて、私を待っていた。
ちなつ「あれ、あかりちゃん?」
あかり「あ、ちなつちゃん……おはよぉ」
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:46:56.86 ID:aoXCoh4M0
鼻の頭を真っ赤にしながら、あかりちゃんが駆け寄ってくる。
ひらひらとあかりちゃんのマフラーが揺れる。
ちなつ「早いねー寒いのに」
あかり「最近目が覚めるの早くって……
家にいても退屈だから、早く来てちなつちゃんを待ってるんだぁ」
知らなかった。
ということは、昨日も一昨日も、
その前だってこんなに寒いのにあかりちゃんをずっと待たせていたってことだ。
ちなつ「ごめんねあかりちゃん!」
あかり「えっ、なんで?」
ちなつ「だって、あかりちゃんが早く来てるなら私も早く来たほうがいいだろうし……」
二人での待ち合わせ場所。
お互いの家からちょうど同じくらいの距離にある木の前が、それだった。
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:50:46.08 ID:aoXCoh4M0
あかり「いいよぉ、あかりが勝手に早く来て勝手に待ってるんだから」
ちなつ「でも、せめて言ってくれれば良かったのに。そしたら私」
あかり「あかりはそれでいいの!」
慌てたようにあかりちゃんが頭を振った。
鼻の頭だけじゃなく、すっかり顔まで真っ赤にして。
ちなつ「……そ、そっか」
あかり「……うん」
無理矢理自分に納得させた私は、「それじゃあさっさと学校行っちゃお」と
歩き出す。あかりちゃんも「寒いもんね」と言いながら後を追ってきた。
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 19:59:14.20 ID:aoXCoh4M0
冬の朝の地面は薄く凍っていて滑りやすい。
走ったら危ないよ、そう声をかけようとしたときには既に遅く。
あかり「わわっ」
そんな声がして、同時にあかりちゃんの滑る音。
どしんっと痛そうな音がまだ静かな住宅街に響いた。
あかり「いたた……」
ちなつ「ほら、言ったのに」
あかり「な、なにも言ってないよねちなつちゃん?」
ちなつ「立てる?」
痛そうにお尻をさするあかりちゃんに駆け寄る。
「うん……」と頷いたあかりちゃんに、私はだめもとで手を差し出してみた。
最近では手を繋ぐことさえままならないんだから。
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 20:31:43.46 ID:sxvgpKzr0
ちなつ「手、貸すよ」
少しは触れてほしいな。
そんなふうに思いながら、私は言った。
あかり「……えっと」
あかりちゃんは迷うように視線を泳がせる。
手だって友達のときは普通に繋げていたのに、だからなんだかすごくもどかしい。
ちなつ「……だめかあ」
いつまで経ってもあかりちゃんは迷ったような表情のまま。
だから私は手を引っ込めて――
あかり「あ、待ってちなつちゃ……!」
冷えてしまった手が私の手を掴んだ。
そして、それに引っ張られるようにして私の身体も後ろへと。
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 20:37:17.51 ID:sxvgpKzr0
確かに足は踏ん張ったはずなのに。
そんな私を嘲笑うかのようにつるりと滑った。
気が付くと私は、あかりちゃんと同じように地面にお尻をぶつけていた。
痛い。
痛いけどなにより恥ずかしい。
あかり「……だ、大丈夫?」
ちなつ「……大丈夫じゃないかも」
あはは、とあかりちゃんが苦笑する。
こんなとこをあかりちゃんに見られちゃうなんて、結衣先輩みたいになることはおろか、
むしろかっこ悪い芸人みたいだ。
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 20:46:21.86 ID:sxvgpKzr0
あかり「あかりが引っ張ってもらおうとするからだよね……ごめんねちなつちゃん」
ちなつ「ううん、あかりちゃんのせいじゃないって」
そう言いながら、そういえば手が離れてしまっていたことに気が付く。
あーあ、さっきはナチュラルに手繋げそうだったのにな。
それでもあかりちゃんから私に触れてこようとしてきたのはやっぱり素直に嬉しい。
そのまま好きでもなんでも言ってくれればいいのに。
痛みが引いてきたのか、あかりちゃんが鞄を持って「よいしょ」と立ち上がる。
私も痛むお尻を無視して立ち上がると、「ちょっと濡れちゃったねぇ」とあかりちゃんが
スカートをぱたぱたさせた。
ほんとだと頷きながら、その声が弾んでいることに気付いた私は、
我ながらほんとに単純だなあって思ってしまったことは秘密だ。
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 20:55:43.88 ID:sxvgpKzr0
◆
あかり「クリスマスパーティー?」
京子「そ、ごらく部の四人でぱーっとやんない?もちろん結衣ん家で」
結衣「そこは決まっちゃってるのな」
京子「当たり前だ」
昼休み、あかりちゃんと二人でいたいがために半ば無理矢理あかりちゃんを
ごらく部の部室まで引っ張り、そこで偶然会ってしまった先輩方から頂いたお言葉がそれだった。
ちなつ「あ、面白そうですね」
二人でいたかった気持ちには勝てないけど、先輩たちがいてくれるほうが私の中で気が
楽になるのも確かだったから、
その場を去ることはせずにあかりちゃんと一緒にいつもの定位置についた。
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 21:02:17.00 ID:sxvgpKzr0
京子「だろ!?」
京子先輩が身を乗り出してくる。あとついでに手も。
その手に載せているコップにさっき沸かしていたらしいお茶のお替りを注いでみると
にゅーっと手が引っ込んだ。それを見て、結衣先輩が笑いをこらえているのがわかった。
京子「うん、美味い」
ずずっとお替りしたお茶を飲みながら京子先輩が言う。
そんな先輩を無視して、私はあかりちゃんに顔を向ける。
ちなつ「あかりちゃんもやりたいよね?」
クリスマスパーティー。
その日二人だけで過ごせるとは元から思っていなかったわけだから、クリスマスの日に
あかりちゃんと一緒にいられるのなら京子先輩たちがいてても我慢する。
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 21:10:05.67 ID:sxvgpKzr0
あかり「うん、そうだねー、楽しそう」
にこにこ笑いながらあかりちゃんが頷いた。
よし、これであかりちゃんのクリスマスの予定はゲットよ、チーナ!
京子「まあほんとにやるかわかんないけどね」
結衣「だと思った」
ちなつ「えっ、ちょっと!?」
結衣「こいつはそういうやつだ、昔から」
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 21:15:58.79 ID:sxvgpKzr0
京子「だってそういうのって準備面倒臭そうじゃん?」
結衣「まあね」
京子「ちなつちゃん、やりたいならあかりと二人でやれば?」
一瞬京子先輩を恨みかけて、すぐに崇めたくなった。
結衣先輩も「うん、そうだね」と半ば棒読み口調で。
……もしかして、何か気を遣ってくれたのだろうか。
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 21:20:13.83 ID:sxvgpKzr0
結衣「あかりだってクリスマス、ちなつちゃんと一緒にいたいよね?」
それまで黙って成り行きを見ていたのか見ていなかったのか
わからなかったあかりちゃんに結衣先輩が声をかけた。
あかりちゃんが「へっ!?」と声をあげる。
あかり「うん、あかりはその、どっちでもいいけど……」
京子「じゃあ決定だ」
あかりちゃんの言い方が少し傷付いたけど、四人じゃなくってあかりちゃんと二人っきりで
過ごせることには変わり無いからそれで良しとする。
京子先輩の一声とかぶさるようにちょうど昼休み終了のチャイムが鳴り、あかりちゃんが
後からやっぱりやめると言う間もなく決まってしまった。(私としては決まってくれた、だけど)
64 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 21:31:23.16 ID:sxvgpKzr0
―――――
―――――
その日の放課後は結衣先輩が帰ると言って、
京子先輩もついでに一緒に帰ってしまったからあかりちゃんと二人きりだった。
昼休みとは正反対で、二人でいると静かな空間。
あかり「……」
ちなつ「……」
あかり「……」
ちなつ「あかりちゃん」
あかり「うん?」
ちなつ「何か欲しいものとかって、ある?」
あまりに突然だったか、
あかりちゃんが「えっ」とテーブルの上でだらんとしていた身体を起こして私を見た。
私は言い訳でもするような口調で、「プレゼント」と呟いた。
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 21:42:14.30 ID:sxvgpKzr0
なんというか、どうせクリスマスパーティーするならプレゼント交換とかしたいなあって思ったから。
そんなことを考えながら、自分が京子先輩と同じ発想になってきたなとげんなりする。
あかり「あかりは特にない、かなぁ」
ちなつ「そっかー……」
あかり「ちなつちゃんは?」
ちなつ「えっ」
訊ね返されるとは思っていなかったからなんとも間抜けな顔をしてしまった。
あかりちゃんが、「プレゼントだよぉ」と笑った。
私のしたかったことがちゃんと伝わっていたことにまず嬉しくなって、
それから訊ね返してきたということはあかりちゃんも何かくれるってことで。
……うん、私たち付き合ってるもんね。
それが当たり前なんだろうけど、でもやっぱり嬉しいものは嬉しくて仕方が無い。
67 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 21:45:16.78 ID:sxvgpKzr0
ちなつ「私もなにもない、かな」
あかり「えー、それじゃあわかんないよー」
ちなつ「あかりちゃんだって同じこと答えたでしょ」
あかり「あ、そっか」
ちなつ「もうー」
そう拗ねた振りをしながら、私は冷めかけたお茶を喉に流し込んだ。
ほんとに欲しいものは、ちゃんとあるけど。
あかり「それじゃあ何か考えとくよ」
ちなつ「……あかりちゃん」
あかり「あかりが、どうかした?」
ちなつ「……あかりちゃんが欲しいなあ、って」
71 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 21:51:52.85 ID:sxvgpKzr0
ちらり、と上目遣いにあかりちゃんを見ると。
案の定あかりちゃんはかちんこちんに固まっていた。
わかっていたこととはいえ、悪戯したくなるような顔だよもう。
ちなつ「だからクリスマスの日、待ってるね」
今日はもうこれ以上、あかりちゃんを急かさない。
急かしたりしたところで、あかりちゃんが何もしてきてくれないのはわかりきってることだし。
お茶を全て流し込むと、私は立ち上がった。
「それじゃあそろそろ帰ろっか」
そう言うと、あかりちゃんはようやく放心状態から立ち直ってくれた。
72 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 21:59:33.32 ID:sxvgpKzr0
―――――
―――――
帰り道。
あかりちゃんとは珍しく校門の前で別れ、私はいつもとは別の道を急いでいた。
鞄の中の財布には、たぶんある程度のお金は入ってるはずだし。
頭の中で財布の中身を思い出しながら、私は学校の傍にあるお店に入った。
そこで毛糸の束を購入する。
冬休みに入った直後のクリスマス。
そのときまでに間に合うかどうかはわからないけど、なんとかやってみるしかない。
今回は絶対に、自分の手だけで作り上げてみせるんだから。
そうよチーナ。
あかりちゃんのために、頑張らなきゃ。
―――――
―――――
73 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 22:00:35.68 ID:9v1v4ba60
ちなつちゃんの製作物は…… 74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 22:04:12.47 ID:BXAxDNJr0
手作りwww 75 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 22:06:22.49 ID:XMlw+mr50
あかりが白目むいてしまう 76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 22:09:56.55 ID:sxvgpKzr0
あかり「最近ちなつちゃん、眠そうだねぇ」
ちなつ「え、そうかな」
あかり「すごく眠そうだよ」
いつもの放課後の部室で、あかりちゃんが心配そうにそう言った。
欠伸しながら最近夜遅いからかなあと答える。
結衣先輩と京子先輩は、また生徒会室に呼び出されているらしい。
あかり「ちゃんと寝なきゃ身体に悪いよ?」
ちなつ「ちょっとくらい大丈夫だよ」
でも、とまだ何か言いたそうなあかりちゃんに、私は「好きだよ」と言って黙らせる。
こんなこと言って黙らせちゃう私も私だけど、黙ってしまうあかりちゃんもちょっぴり悲しい。
いくら時間が経ってもあかりちゃんはまだ好きとは言ってくれないし、
こんなふうに黙っちゃうし。
あかり「……お茶、おかわりいる?」
ちなつ「うん」
やがて再起動したあかりちゃんが、
控えめにそう言ったので欠伸をかみ殺して私はまだ空にもなっていないコップを差し出した。
85 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 22:32:04.73 ID:sxvgpKzr0
◆
そんなこんなで、時間は過ぎていって。
気が付くと冬休みはもう目前だった。
京子「明日からとうとう冬休みか……そして待ちに待ったクリスマス!」
結衣「そうだね」
京子「あかりもちなつちゃんも楽しみだよねー?」
あかり「うん!」
ちなつ「……」
京子「おーい、ちなつちゃん?」
はっと顔を上げた。
いけないいけない。早く仕上げなきゃいけないと思ってここ最近徹夜ばかりなのだ。
そのせいで、今は眠くて眠くて仕方が無い。
結衣「ちなつちゃん、ぼーっとしてたけど大丈夫なの?」
ちなつ「あ、はい、全然平気です!」
あかり「ちなつちゃん……」
あかりちゃんが困ったような顔をして私を見た。
私はそれに気付かない振りをする。
せめてあかりちゃんにだけは、絶対に言うわけにはいかない。
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 22:42:38.43 ID:sxvgpKzr0
絶対に完成させなきゃいけないわけじゃない。
それに、いざとなったらお姉ちゃんや向日葵ちゃんにだって手伝ってもらうことはできるわけで。
だけどそれも絶対にしたくはなくって。
まるで意地張ってるみたいね、と昨日お姉ちゃんに言われたことをふと思い出す。
まだ寝ないの?と本気で心配そうな顔をしてお姉ちゃんが覗きに来るほど、
確かに最近の私の生活は昼夜逆転しちゃっている。
意地なんて張ってるつもりはない。
単純にあかりちゃんに喜んでほしくって――
結衣「ちょっとちなつちゃん!こんなとこで寝ないで!風邪引くから!」
ちなつ「あっ……」
京子「ちなつちゃん、帰って寝たほうがいいんじゃね?」
考え事をしていると、いつのまにかうとうととしてしまっている。
慌てて顔を上げながらも、くっつきそうになる目蓋はあまりにも重い。
92 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 22:51:21.98 ID:sxvgpKzr0
ちなつ「大丈夫ですってー」
そう言っていても説得力なんてないのは自分でも重々承知。
昼間っからこんなんだったら今夜はきついかも。
クリスマスまでもうあと二日ほどしかないのに。
あかり「ちなつちゃん、帰ろう?」
またうとうとしはじめたとき、あかりちゃんは突然そう言って。
今から家に帰ってしまったら、京子先輩に言われずとも寝てしまいそうな気がする。
それなら帰らないで、あかりちゃんと一緒にいたいと思うのは当然のことだと思う。
ちなつ「でもあかりちゃん……」
あかり「あかりも一緒に帰るから」
結衣「そうだね、そうしたほうがいいって、ちなつちゃん」
京子「あかりが一緒なら歩いてる途中ちなつちゃんが寝ちゃっても大丈夫だろうし」
95 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 22:58:01.85 ID:sxvgpKzr0
ちなつ「私そんなに器用じゃないです!」
京子「今のちなつちゃんならそんなこともやってのけそうなくらいってこと」
確かに、それは否定できないかもしれない。
眠くて眠くてしかたない。
私は反論できずに、仕方なく荷物を持って立ち上がった。
ちなつ「重っ」
京子「学期末だからねー。ちなつちゃんも荷物ためてた派か」
結衣「京子ほどではないだろうけどな」
結衣先輩が溜息を吐いたとおり、
部室のあちらこちらに京子先輩のものと思しき色々な物体が散乱している。
結衣先輩の言うとおり、さすがに私もここまでじゃない。
96 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 23:00:13.10 ID:sxvgpKzr0
あかり「ちなつちゃん、あかり持とうか?」
私と同時に立ち上がったあかりちゃんが、心配そうに手を出してきた。
あかりちゃんは優しいなあとぼんやり思いながらも首を振る。
こんな重いのをあかりちゃんに持たせるわけにはいかないし。
あかり「あかりは大丈夫だから、貸してちなつちゃん」
ちなつ「えっ、でもあかりちゃん……」
言ってる間に、あかりちゃんが私の手から鞄を抜き取った。
さっきの私と同じように重っとふらつきながらも、あかりちゃんが「ほら」と笑う。
ちなつ「……あかりちゃん」
あかり「えへへ」
97 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 23:04:25.54 ID:w7pvql6A0
あかり天使やでぇ…… 98 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 23:05:15.23 ID:HPoftPhV0
尽くすタイプだな 100 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 23:06:11.01 ID:sxvgpKzr0
ちなつ「……顔がひきつってる」
あかり「……えへへ」
無理することないのに。
そう言いそうになって、今の私はあかりちゃんに同じことを返されそうな気がしたからやめておいた。
あかり「それじゃあ結衣ちゃん、京子ちゃん、先帰るよ」
京子「あかりが強い……!」
結衣「あかりもちなつちゃんも気をつけて」
あかりちゃんは「うん」と頷きながら、さっさと部室を出て行ってしまう。
私も慌てて追いかけながら、なんだかいつもと逆みたいだと思った。
104 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 23:14:58.59 ID:sxvgpKzr0
―――――
―――――
あかり「ちなつちゃん、大丈夫?」
ちなつ「何回も聞かなくたって大丈夫だってば」
あかり「そうかなぁ」
そりゃあ欠伸を連発している私が言っても首を傾げたくなるだろうけど。
あかりちゃんがよいしょ、と私の鞄を担ぎなおした。
ちなつ「それよりほんとに鞄、持ってもらってごめんね」
あかり「いいよー、あかりが持ちたくて持ったんだもん」
ちなつ「……そっかー」
あかり「うん、そうだよー」
安心する、あかりちゃんの声。
校門を出て、いつもの道を歩きながら。
突然、ぼんやりした頭でまるでまだ私たちが友達だったときに戻ったみたいだと思った。
111 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 23:25:15.13 ID:sxvgpKzr0
あかりちゃんがいて、私がいて、こうやって話していて。
今なら手を繋いでみても、好きだって言ってみても、いいような気がした。
今ならあかりちゃんも、ちゃんと答えてくれそうな気がした。
ちなつ「ねえ、あかりちゃん」
あかり「なあに、ちなつちゃん」
ちなつ「好きだよ」
半ば夢見心地。
だから、あかりちゃんが消えてしまわないように、私は振り向いたあかりちゃんの
手をぎゅっと掴んだ。
117 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 23:38:16.78 ID:sxvgpKzr0
あかりちゃんは答えてくれなかった。
いつもみたいに「うん、あかりもだよ!」とは言ってくれない。
手が離され、その手があまりにも冷たくて、私ははっとした。
ちなつ「……」
あかり「……あ」
あかりちゃんが小さく声をあげて。
寒々とした空気が、なんだか突然私を襲ってきたみたいに私の頭は眠気から解放された。
その代わりに、あかりちゃんに手を振り払われたのだということがずんっと私の心を
沈ませた。
ちなつ「……ごめんね、あかりちゃん」
謝ると、あかりちゃんは泣きそうな顔をして、「今のは違って……」と呟いて。
それを聞いて、私がどうして絶対にマフラーを完成させようとしていたのか、わかった気がした。
あかりちゃんがいつか離れていってしまうような気がしていたからだ。
だから、あかりちゃんを繋ぎとめようとして、それで私はあんなに必死に。
120 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 23:42:04.00 ID:sxvgpKzr0
ちなつ「ねえ、あかりちゃん」
私はもう一度、言った。
あかりちゃんがびくっと身体を竦ませた。
私の重い鞄があかりちゃんの肩からずり落ちて、とうとう地面に激突した。
ちなつ「私のこと、嫌いになっちゃった?」
好きって言ってくれなくなって、それで手を繋ぐことさえできなくて。
それならまだ、友達として好きって言い合ったり、手を繋いでいたほうが良かった。
あかりちゃんに嫌われてしまうのなら、いっそ友達のままで。
ちなつ「もう、好きじゃないんだよね」
あかり「……ちなつちゃん」
私はごめんね、とあかりちゃんに笑いかけた。
そのまま、あかりちゃんの足元に落ちた自分の鞄をよいしょと持ち上げて。
124 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 23:48:33.05 ID:sxvgpKzr0
「違うよ!」
重い目蓋。
沈んだ心と、それから重なったのは。
ちなつ「……」
あかり「違うよ、ちなつちゃん」
あかりちゃんは、もう一度確かめるようにそう言って。
持ち上げた鞄が、またコンクリートの上に落ちた。トスンと音がした。
132 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/27(木) 23:56:11.08 ID:sxvgpKzr0
ちなつ「……違うって?」
どきんどきん。
心臓が、びっくりするくらい早く動いている。私は喘ぐように、訊ねた。
あかり「ちなつちゃんのこと、嫌いなわけ、ないよ」
ちなつ「……でも、あかりちゃん」
あかり「ずっと、言いたかったんだよ」
けど、言えなかったの。
あかりちゃんはやっぱり泣き出しそうな表情のまま、そう言った。
あかり「この気持ちが本当なんだってわかったら、あかり、どうしていいかわからなくって。
簡単に伝えちゃったら、それってなんだか嘘になっちゃいそうで、それが怖くって、それで」
ちなつ「……なら私の言葉も、嘘だって思った?」
あかり「……ううん」
私が言うと、あかりちゃんは首を振った。
それから、「こんなに好きになっちゃうなんて、思ってもみなかったよぉ」と笑って。
137 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/28(金) 00:05:42.35 ID:X1LwGoNk0
私まで泣きそうになる。
あかりちゃんは、ずるいよ。
ちなつ「じゃあ、ちゃんと言ってみて」
あかり「……えへへ」
あかりちゃんは照れ笑いを浮かべて、「あかり、ちなつちゃんのこと大好きだよ」
そう、囁いて。
ちょっと早い、あかりちゃんからの二回目のクリスマスプレゼント。
――私だって、負けないくらい大好きなんだから。
でも、声には出せなかった。
きっとあかりちゃんのことが好きすぎて。あかりちゃんの嘘になっちゃいそうって言葉が、
少しわかった気がした。
だから、好きって言えない代わりに私のプレゼントも頑張らなくっちゃ。
終わり
139 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/28(金) 00:06:58.27 ID:X1LwGoNk0
その後私のあげたマフラーを見てあかりちゃんが嬉しすぎて白目をむいたことは
あかりちゃんの名誉のために秘密だ。
支援保守、最後まで見てくださった方ありがとうございました
それではまた
143 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/28(金) 00:08:32.70 ID:J/X5qXh80
乙だよぉ
とてもいいちなあかありがとうございまし 147 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/28(金) 00:12:42.46 ID:YmC6JrA50
乙
綺麗に終わって良かった 148 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/28(金) 00:12:57.62 ID:uM+GV2sC0
乙!
最高なちなあかをありがとう
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ちなあかは最高です