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憂「姉妹のおしまい」 後編

後編です



138 : ◆vpZmHuIQzk :2010/09/21(火) 00:14:48.72 ID:U4rlwfkBO

【広間:琴吹紬】


どれくらい時間が経ったのか、時間に対する感覚が曖昧になっているわたしには全くわからなかった。
時計の秒針を遥かに凌ぐ早さで、心臓が脈を打っていた。

なにがなんだか理解できない。
なんで澪ちゃんが死んでいたのか。どうしてあんな場所で死んでいたのか。
様々な疑問がまともな形にならないまま頭の中で、ごった返しになっていた。

ただ一つだけ確実にわかることがある。
このままだと間違いなくわたしたちは死ぬ。殺されてしまう。
他でもない。この別荘にいる誰かによって。

気持ち悪い。
胃の中を棒状のもので掻き混ぜられているかのように、吐き気が込み上げてくる。

唯「あずにゃん……しっかりして…………」

唯ちゃんが布団に横たわる、梓ちゃんの小さな手を握る。
その手は僅かに震えている。

澪ちゃんの死体を見て気絶した梓ちゃんを、ここまで運ぶのはそれほど苦労しなかった。
むしろ梓ちゃんが気絶していなければ、わたしが気絶していたかもしれない。


182 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 22:10:49.07 ID:U4rlwfkBO

唯「え? ……な、なに? いきなりどうしたの?」

紬「唯ちゃん。わたしたちは今、最悪な状況よ」

唯「…………」

紬「澪ちゃんが殺された。残るはわたしと、唯ちゃんと梓ちゃん。そして、行方のわからないりっちゃん」

唯「わ、わたしは澪ちゃんを殺してなんか……!」

紬「わたしもよ。でも、そんなことを言ったら、犯人は誰になるの?」

唯「お、落ち着いてよ、ムギちゃん! ムギちゃん、メチャクチャなこと言ってるよ……!」

わたしは浮きかけていた腰を椅子に落として、溜息をついた。
唯ちゃんは明らかに狼狽している。

唯「落ち着こうよ……。このままじゃ、わたしたちみんな、ホントに……」

唯ちゃんの語尾は、窓硝子の向こうの雨に吸い込まれていった。


184 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 22:21:14.96 ID:U4rlwfkBO

全体重を背もたれに預け、わたしは再度溜息を零した。
頭蓋を中で、わたしの考えは右往左往する。
激しい焦燥を感じているのに、これ以上行動を起こそうとする気力が湧いて来なかった。

唯ちゃんはそんなわたしをすがるように見る。
ごめんなさい……わたしにできる最後のことは友達を疑うことだけだったみたい。

唯「ムギちゃん、どうするの……?」

紬「わからない。今は警察が来るのを待つことぐらいしか浮かばないの」

自分に嫌気がさす。
昨日までのわたしは、まだ、友達をできるかぎり信じようという思いを持っていた。
でも、今はどうなのだろう。
唯ちゃんに対してわたしが抱いているのは、単なる不信感でしかないのか。

去年の合宿で五人でした花火を思い出す。
淡く燃える線香花火をじっと見つめていた自分。
わたしが作りあげた絆は所詮、線香花火程度のものでしかないのか。
風が吹けば消えてしまうような脆弱なものにすぎないのか。

これ以上、なにも考えたくなかった。

諦めにも似た心境でわたしは目を閉じる。

わたしの意思を無視して、昨晩の光景がフラッシュバックした。


185 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 22:31:47.25 ID:U4rlwfkBO

【昨夜:浴場:琴吹紬】


六人で足を踏み入れた時の活気が嘘のようだった。

そんなことを思いながら、蛇口を捻り、勢いよく飛び出るシャワーを頭から被る。
濡れそぼった髪に、泡立てたシャンプーを染み込ませていく。
瞼を下ろして髪を洗うことに集中する。

髪の汚れが落ちていくのに合わせて、神経が研ぎ澄まされて視覚以外の感覚が鋭敏になっていくのを感じた。
鼻につく甘ったるいシャンプーの匂い。立ち上る湯気の肌触り。
シャワーが床を伝って排水溝に吸い込まれていく音が妙に耳についた。

目を閉じていたせいだろうか。
不意に海馬にこびりついていた記憶が脳裏をよぎる。
澪ちゃんと憂ちゃんの死に姿が鮮明に瞼の裏に蘇った。
神経が限界まで張り詰め、全身の産毛が逆立つ。

わたしは睫毛にかかった泡を無視して、両目を開いた。

度の合わない眼鏡をかけたような視界に、ぼんやりとした輪郭が浮かび上がる。
それが鏡に映った唯ちゃんだと気づくのには数秒かかった。
唯ちゃんは背後に立って、わたしを見下ろしていた。

紬「なにかあったの?」

唯「ううん、ただシャンプーを貸してもらいにきただけだよ」

無くなっちゃったからさ。そう言って唯ちゃんはわたしの髪に触れた。


187 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 22:41:21.37 ID:U4rlwfkBO

唯「ムギちゃんの髪の毛ってすごい綺麗だよね」

紬「……ありがとう」

褒められたのに素直に喜べなかった。
暖かい湯を浴びているのにも関わらず、身体の奥から得体の知れない寒気が湧いてくる。
シャワーの勢いを最大にして頭から湯を浴びる。

紬「…………?」

髪の毛を包んでいた泡を、シャワーで完璧に流したのと、
唯ちゃんの視点がある一点に注がれているのに気づいたのは、ほとんど同時だった。

唯ちゃんの眼球がゆるりと動く。
唯ちゃんが目で追いかけていたのは、わたしの頭から抜け落ちた髪だった。
湯と一緒に床を滑っていくそれは、やがて渦を描いて排水溝に吸い込まれる。

紬「唯ちゃん……?」

唯「…………」

唯ちゃんは、ややあってから言った。

唯「ムギちゃん――」


189 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 22:50:27.35 ID:U4rlwfkBO

身体の汚れを落としたわたしは湯舟に浸かった。

紬「……ふぅ」

湯舟に浸かると、汗腺が一層開いて身体の奥底の汚れを吐き出した。
凝り固まった筋肉が、ゆっくりと弛緩していく。
借反めの安堵にひたりながら、わたしは軽く伸びをした。
澪ちゃんも、唯ちゃんも、梓ちゃも、わたしと同じように無言で湯の中で身体を伸ばす。

唯「……わたしね、ホントに憂のことが好きだったんだ」

なんの前触れもなかった。
唯ちゃんの声が静かに浴場にこだました。

梓「唯先輩……?」

梓ちゃんが不思議そうに、唯ちゃんの顔を窺う。
唯ちゃんの独白は続いた。

唯「憂はね、昔からわたしを守ってくれた。わたしを好きでいてくれた」

紬「…………」


192 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 23:03:56.65 ID:U4rlwfkBO

唯「わたしが誰かにイジメられてる時もそうだった。

わたしが自分の殻に閉じこもっていた時も。

どんな時も憂はわたしの側にいてくれた。

いつもわたしのことを思ってくれた。

わたしのことを好きでいてくれた。

わたしもそんな憂のことが大好きだったんだ」

梓「唯先輩は……憂のこと、本当に大好きなんですね」

唯「うん、大好きだったよ」

唯ちゃんが頷く。上気した頬を水滴が伝い落ちていく。
唯ちゃんが、手で湯を掬いあげて乱暴に顔を擦りあげた。
唯ちゃんの言葉に枯れ葉が落ちた泉のように、わたしの中に波紋を起こす。

大好きだった。

唯ちゃんはどんな気持ちでこの言葉を呟いたのだろう。


193 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 23:13:11.43 ID:U4rlwfkBO

【広間:琴吹紬】

突如、頭の中で白い閃光が爆ぜる。
わたしは声をあげて顔をばっと、起こした。

唯「び、びっくりした……! む、ムギちゃん!?」

走馬灯のように脳裏を駆け巡る記憶のせいで、唯ちゃんの声はぼんやりとしか聞こえなかった。

脳がキリキリと音を響かせて、急速に動き出す。

唯「……ど、どうしちゃったの、ムギちゃん?」

紬「ごめんなさい。少しだけ黙って、唯ちゃん」

唯「う、うん……」


195 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 23:20:05.66 ID:U4rlwfkBO

わたしはキツく目を閉じて下唇を噛む。

記憶の海から事件のヒントを手繰り寄せるために、慎重にけれども、早く、頭を回転させていく。

間違いなくヒントは今の回想の中にあった。
酷く曖昧で、それは確実にこの事件の解決に繋がるかどうかは、はっきりしていない。

だが、アレがわかれば……

不意に脳裏に閃くものがあった。わたしは目を開いた。

紬「…………!」

ほとんど反射的に、わたしは椅子から立ち上がった。
驚く唯ちゃんも、気絶した梓ちゃんのことも一瞬視界から消える。
芋蔓式に、様々な光景が瞼の裏で瞬く。

紬「唯ちゃん、ついて来て」

唯「ちょ、ちょっとムギちゃん、引っ張らないでよ……!」

わたしは唯ちゃんの手を引っ張っていた。
行くべき場所は既に決まっている。


197 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 23:24:14.30 ID:U4rlwfkBO

【浴場:平沢唯】

ただならぬ様子のムギちゃんに引っ張られるまま、わたしは浴場へと訪れていた。
まだ、微かに湯気の漂う浴室をムギちゃんは迷うことなく進んでいく。

唯「ちょっとムギちゃん、どうしちゃったの!?」

紬「わかるかもしれない……!」

唯「なにを?」

紬「犯人が」

わたしは図らずも立ち止まる。
わたしに釣られるように、ムギちゃんも歩を止めた。

唯「わかったの?」

紬「まだ、わかるかも、って段階」

ムギちゃんはそう言うと、踵を返した。

わたしはただ、立ち尽くしていた。


200 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 23:38:17.65 ID:U4rlwfkBO

【浴場:琴吹紬】


予感はもう確信に変わりつつあった。
未だに熱を持った、タイルの上を歩きつつ、わたしは備えつけられた鏡を見た。

僅かに曇った鏡に、緊張と興奮に強張ったわたしの顔が映る。

わたしはそこで足を止める。
目的は最初から『コレ』の状態を確かめることだった。

紬「……やっぱり」

わたしはソレを手にとる。
目を凝らすまでもなく、それがなんなのかを理解した。
初めて手応えのようなものを感じて、わたしは拳を握りしめる。

だが、次の瞬間、わたしの胸に去来したのは事件のヒントを掴んだという達成感ではなかった。

紬「…………ぇ?」

予想外すぎる事態に対する戸惑いが、わたしに間の抜けた声を漏らされた。


203 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 23:47:48.68 ID:U4rlwfkBO

紬「……どういうこと?」

ようやくヒントを見つけた。
そう思ったのは、どうやら本当につかの間らしかった。

引っ張りあげた思考の糸が再び絡まり縺れる。

有り得ないことが起きている。

コレはいったいどういうこと?

警告音が頭蓋の中で響き渡る。

気づいて。気づいて。わたしはまだなにかを見落としている。

唯「ムギちゃん、なにかわかった?」

背後から唯ちゃんに尋ねられ、わたしは振り返る。
紬「ちょっと待って。わかる気がする。わかる気がするのに、わからない」

唯「ムギちゃん、それより……」

紬「……なに?」

唯「あずにゃんが一人っきりだと危険だよ」


204 : ◆CulCCip/zY :2010/09/21(火) 23:55:46.12 ID:U4rlwfkBO

【広間:琴吹紬】

唯「あずにゃん、大丈夫?」

梓「え、ええ、なんともありませんでしたよ」

わたしと唯ちゃんが、浴場へ足を運んでいる間に梓ちゃんは気絶から目覚めたらしかった。
黒い髪の下の顔は紙のように白かったが、思いの他、はきはきと梓ちゃんは答えた。

唯「よかった……」

梓ちゃんが無事であることがわかり、唯ちゃんは胸を撫で下ろした。

紬「梓ちゃん、本当になにもなかった?」

梓「特には……わたしは大丈夫です」


207 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 00:11:38.79 ID:v3lhk4NFO

唯「本当によかった。もし、これであずにゃんまで……」

唯ちゃんはそこで言葉を切った。

梓「そうですね……」

紬「…………」

六人でこの別荘を訪れたのに、今、広間にいるのはたったの三人だけ。
忍び寄ってくる憂鬱を振り払うように、わたしはかぶりを振る。

三人……?

紬「唯ちゃん、梓ちゃん、以前にもわたしたち三人だけになったことがあったよね?」

唯「ここに来てからの話?」

紬「うん。確か三人で……?」

喉元まで出かかっているのに、そこから先へと記憶が進まない。

梓「もしかして、わたしたち三人でバーベキューの器具を片付けに行った時のことですか?」

おずおずと梓ちゃんが、言った。

それこそ、わたしが思い出したことだった。


209 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 00:24:06.75 ID:v3lhk4NFO

【物置部屋:琴吹紬】

梓「暗いですね」

梓ちゃんの言う通り、物置部屋は光を入れるための窓もなければ、明かりもなく、ほとんど真っ暗に近かった。
わたしは照明のスイッチの側に備えつけされている懐中電灯を、手探りで探す。

紬「……あれ?」

本来あるはずの、懐中電灯が見当たらない。
しばらく壁に手を這わせていると、懐中電灯の代わりにスイッチに指が触れる。
もっとも照明はとうの昔に切れているので、そのスイッチ自体に意味はなかった。

唯「そういえば明かりつかないんだよね?」

紬「そうなんだけど……」

仕方がないので、携帯電話の撮影用ライトで部屋を照らす。


214 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 00:34:47.22 ID:v3lhk4NFO

紬「…………!」

予想通りであったことと、予想外であったこと。
その二つに直面して、わたしは首を傾げた。
新たな疑問が、頭をもたげ、それがまた思考の妨害をする。

唯「ムギちゃん……?」

紬「……唯ちゃん、唯ちゃんは自分の寝室になにがあったか思い出せる?」

唯「え……えーと……」

梓「そんなにものはなかったはずです。あったのは……」

紬「ベッド、デスク、スタンド……それだけ」

梓ちゃんの言葉をわたしが引き継ぐ。

梓ちゃんは頷いた。


216 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 00:40:06.93 ID:v3lhk4NFO

紬「わたしが話したこと、覚えてる?」

唯「ここにバーベキューセットがあること?」

紬「違う。そうじゃなくて……」

梓「手品用の道具がこの部屋にはたくさんある、ですか?」

紬「そう。それ」


徐々に事件の全貌が見えてきた。


220 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 00:49:11.79 ID:v3lhk4NFO

完璧には程遠い推理。

けれども犯人だけは、確実にあっている推理。

蓋を開ければあまりに単純であるトリックとも呼べない、陳腐な手を使った殺人劇。

だが、あれはどうなる。あれは…………。

絡みあってくちゃくちゃになった思考の糸を筋道を立てて、順にほどいていく。

焦っちゃダメ。焦るな。見落としていることはないか。

紬「……!」

脳裏に鋭い光が再び弾ける。

紬「唯ちゃん、梓ちゃん……」

わたしは言った。声は震えていた。

紬「犯人が、わかった」


226 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 01:00:56.25 ID:v3lhk4NFO

【廊下:中野梓】


わたしと唯先輩とムギ先輩は、ある寝室の前まで来ていた。
ムギ先輩から犯人の名前を聞いた瞬間は納得することができなかった。
実際ムギ先輩は説明をしようとはしなかった。

唯「ムギちゃん、本当なの……?」

紬「たぶん。間違いないわ」

心臓がけたたましく鳴っている。

どうして彼女が人殺しを?

そう疑問をもたずにはいられなかった。

いや、それは彼女の口から聞き出せばいいことか。

ムギ先輩の白い手がドアノブを掴む。
わたしは知らず知らずのうちに息を呑んでいた。


扉が開く。


230 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 01:13:31.66 ID:v3lhk4NFO

【寝室:中野梓】


部屋に足を踏み入れて、最初に込み上げてきたのは強烈な吐き気だった。
堆積してそのまま発酵したかのような鉄錆の臭いが、室内に充満していた。

ムギ先輩が明かりをつける。

天蓋つきベッド。
ライティングデスク。
スタンド。

そして、憂の顔が乗ったもう一つのテーブルが、部屋の奥を陣取っていた。


紬「死んだふりはもう終わりにしていいわよ、憂ちゃん」



とっくに死んでいるはずの憂の唇が、ゆっくりとめくれ上がる。


235 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 01:24:54.93 ID:v3lhk4NFO

梓「う、憂………っ」


憂の目がわたしを見て、嬉しそうに細まる。まるで獲物をいたぶって楽しむ猫のように。


憂「あーあ、バレちゃいましたか」


不意に憂の姿が消えた、と思った。
なにかが床に倒れる鈍い音とともに、憂がテーブルの下から這うように出てくる。


憂「ふふ、一日振りだね、梓ちゃん」


憂が嬉しそうに唇を綻ばせる。
見慣れているはずの笑顔なのに、見た途端、足許から恐怖が這いでてくる。

紬「澪ちゃんを殺したのは、憂ちゃん、あなたね?」

憂「はい。その通りです」

いつもとなんら変わらない調子で、憂は頷いた。


237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/22(水) 01:29:02.90 ID:QnISj8ms0

も、もちろんわかってたけど!?


240 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 01:36:10.00 ID:v3lhk4NFO

【寝室:琴吹紬】


どうして死んだはずの憂ちゃんが、生きているのか。

簡単な話だった。単純に死んでいなかったからにすぎなかった。

憂ちゃんは『スフィンクス』という古典的なマジックを利用して、わたしたちの目を欺いた。

憂ちゃんが使ったマジック。

予め穴のあいたテーブルを用意し、サイズピッタリの鏡を机の足と足の間にはめる。

後は顔を通してしまえば、鏡による目の錯覚で、テーブルの下はなにもないという風に見える仕掛けになっていた。


245 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 01:44:33.81 ID:v3lhk4NFO

紬「まんまとはめられたわね」

憂「そうみたいですね」

梓「で、でも……じゃあ、この部屋の臭いはなんなんですか?
憂が死んでないのなら、誰の臭いだって言うんですか!?」

梓ちゃんの声はほとんど悲鳴に近かった。
部屋に充満する血の臭い。
これの正体は、わたしの考えが正しければ一つしかない。

わたしは息を呑んだ。口の中の水分は既に干上がっていた。


紬「血の臭いの正体は、りっちゃんでしょう?」


248 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 01:54:54.84 ID:v3lhk4NFO

憂「すごいですね。紬さん。ええ、そうなんです。その通りなんですよ」

憂ちゃんの人差し指がテーブルの中を指す。
わたしはその口を開けた暗闇の中を見るために、目を細めた。

最初、それがなんなのか理解できなかった。
既に解答はわかっているのに、それがなんなのか認識できない。

憂「なにかわかりませんか?」

憂ちゃんがテーブルの下に手を突っ込み、掴んだそれを掲げる。

梓「ひぃっ…………!」

わたしより先に、梓ちゃんがそれの正体に気づいた。

わたしには、それは人差し指のように見えた。

赤黒く変色した指を、弄びながら憂ちゃんは笑った。

憂「リアリティを演出するために、律さんには死んでもらいました」

ようやくわたしはテーブルの中の正体に気づくことができた。

バラバラというより、ミジミジに切り刻まれた、肉の固まり。


りっちゃんは憂ちゃんによって、限界ギリギリまで刻み込まれたのだ。


251 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 02:09:16.38 ID:v3lhk4NFO

りっちゃんはほとんど原形を止めていなかった。

言われたところで、それがりっちゃんだと認識できる人がどれくらいいるというのか。

不意に足許が頼りなくなって、わたしはよろめいた。
口許を覆って、吐き気を堪える。

憂「ところで、紬さんはどうしてわたしが生きているってわかったんですか?」

紬「……浴場の排水溝に髪の毛が残ってたのよ」

憂「髪の毛?」

紬「わたしたちが昨日お風呂に入ったのは夜十時。その時に排水溝のを掃除しておいたの」

憂「ああ……わたしが澪さんを殺してから、身体を洗ったのが二時頃。髪の毛が排水溝に残ってたんですね」


253 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 02:16:33.93 ID:v3lhk4NFO

紬「ねえ、憂ちゃん。あなたは最初からわたしたちを殺すことを計画していたの?」

憂「さあ?」

わたしの質問に対して憂ちゃんは肩を竦める。

だが、わたしには確信があった。
今回の打ち上げが決まったのが二週間前。
今回の打ち上げで一番でかい別荘を使うことは、決まったと同時にみんなに連絡していた。

そして、打ち上げの決まったその日に、憂ちゃんはわたしに電話してきた。

『お姉ちゃんのことが心配だから、今回使う別荘について教えてください』

わたしは、憂ちゃんの質問に対して、できるかぎり細かく答えた。

今思えば、あれはわたしたちを殺すための計画を練っている最中だったのだろう。


254 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 02:31:02.16 ID:v3lhk4NFO

梓「ちょっと待ってください」

不意に梓ちゃんが声をあげる。

梓「律先輩はいつ殺されたんですか……?」

紬「それは……」

わたしは憂ちゃんの顔を見た。
憂ちゃんは唇にうっすらと笑みを張りつけているだけで、質問には答えない。

紬「それは……昼の十一時以降から、わたしたちが憂ちゃんの部屋に行くまでの間の時間……」

梓「それじゃあ、たった一時間しかありませんよ!? おかしいじゃないですか!?」

確かにおかしい。
いくらなんでも、殺して、その上身体をバラバラにするには時間が足りなさすぎる。

わたしが深い思考の海に潜りこもうとした時だった。


255 : ◆CulCCip/zY :2010/09/22(水) 02:34:58.17 ID:v3lhk4NFO

背中を強烈な違和感が襲った。


立っていられないほどの重い衝撃。


いったいなにが起きたのか。


唯「ごめんね。ムギちゃん。わたし嘘ついちゃった」


唯ちゃんが、わたしの背中を刃物で突き刺していた。


338 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:28:59.66 ID:N4xg/FRMO

足許が沈む。
なにかが床に投げ出される鈍い音を聞いたと思った。
自分が床に叩きつけられる音だった。

嘘をついちゃった?なにを? どこで?

背中から噴き出る血とともに疑問が溢れる。
けれども、それすらも背中を襲う激痛に飲み込まれる。
明滅する視界に唯ちゃんの顔が映る。
一瞬だけ悲しみに歪んだように見えた。が、暗い闇に塗り潰されていく。

「ごめんね、ムギちゃん」

上から声が声が降ってくる。
だが、すぐにそれは闇と静寂に変わった。


340 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:42:50.20 ID:N4xg/FRMO

【寝室:平沢憂】


琴吹紬は床に横たわったまま絶命していた。
実にあっけない。そう思った。
わたしは残った一人に視線をやる。

くずおれた梓ちゃんは、呆然と息絶えた紬さんを見ていた。
まるで生気を抜かれたかのように、口を開いたまま凄惨たるその光景を見つめていた。

梓「……どうして、唯先輩がムギ先輩を殺すんですか?」

機械が喋っているかのような生気の抜けた声。
梓ちゃんの質問に答えたのはお姉ちゃんだった。

唯「まだ、わからないの? あずにゃん、わたしと憂は協力してたんだよ」

梓「意味がわかりません」

唯「じゃあ、あずにゃんは、わたしがムギちゃんについた嘘がなにかわかる?」

梓「……わかるわけありません」


341 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:52:19.43 ID:N4xg/FRMO

唯「少しは考えなよ」

梓「いやです。なにも考えたくありません。それより質問に答えてください」

唯「……だからさ。わたし、昨日の朝にね、ムギちゃんに嘘ついたんだ……ううん、ムギちゃんだけじゃない」

梓「…………」

唯「みんなに嘘ついたんだよ。

りっちゃんを十一時に起こしに行ったって、ね。

これね、嘘だったんだ」

梓「……どういうことですか?」

唯「実際には、りっちゃんは一日目の夜中に死んでたんだよ」

憂「みんなが寝室に入ってから、わたしが律さんを部屋に呼びつけて殺したんだよ」

梓「…………」

唯「わかったかな、あずにゃん?」

梓「……わかりたく、ありません」


342 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 20:08:36.17 ID:N4xg/FRMO

梓ちゃんがわたしとお姉ちゃんを見る目は、酷く怯えていた。
絶望に染まった双眸には、わたしたち姉妹が映っている。

梓「……なんで、ムギ先輩も律先輩も澪先輩も殺したの?」

憂「邪魔だから」

わたしはぴしゃりと言い放った。

憂「邪魔で邪魔で仕方なかったんだよ。わたしとお姉ちゃんの間に軽音部なんていらない」

ずっと前から思っていた。
お姉ちゃんに蚊のように纏わりつく軽音部の人間が嫌いだった。
嫌いというより憎んでいた。わたしに巣くった憎しみが、殺せ殺せ、とわたしにうったえた。
お姉ちゃんから今回の打ち上げの話を聞いたとき、わたしの激情を押さえ込んでいたキャップが外れた気がした。

殺してやる。
わたしからお姉ちゃんを奪おうとする、軽音部を潰してやろうと思った。


343 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 20:17:49.45 ID:N4xg/FRMO

わたしはお姉ちゃんにうったえた。
わたしはお姉ちゃんが好き。だからわたしだけを見て。
他人なんかどうでもいいから、わたしだけを見てくれ、と。

お姉ちゃんはわたしの願いを受け入れてくれた。
軽音部の連中を殺したら、わたしのものになってくれると、そう言ってくれた。
わたしも憂のことが大好きだよと、わたしに微笑んでくれた。

わたしはあらゆる殺人の手段を考え、どんな場合にも対応できるようにした。
実際、わたしはある場面で殺人がやりやすいように、全員をコントロールした。
結果として、わたしの殺人は成功し、お姉ちゃんはわたしだけのものになった。
まさか、お姉ちゃんが紬さんを自らの手で殺めるとは思っていなかったが。

そして、あとは梓ちゃんを殺せば、わたしの殺人計画は終わる。
お姉ちゃんはわたしだけのものになる。
わたしはお姉ちゃんのものになる。

唯「――憂」

不意に、わたしはお姉ちゃんに抱きしめられていた。


346 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 20:35:03.96 ID:N4xg/FRMO

憂「お姉ちゃん……?」

唯「憂……」

憂「まだ、梓ちゃんを殺していないよ?」

唯「あずにゃんなんてどうでもいいよ。それより今はこうしていたいよ」

憂「お姉ちゃん……」


お姉ちゃんの匂いがした。
甘く、柔らかく、温かいぬくもりが布越しからでもよくわかった。
邪魔な連中を殺している時でさえ感じることのなかった、喜びがわたしの胸をひたひたと満たす。
今まで感じたことのない愉悦が、身体中に行き渡り、わたしの腕はお姉ちゃんを抱きしめていた。
自分の中でずっと張り裂けそうになっていた、欲望が頭をむくむくと、もたげる。
頭がくらくらした。お姉ちゃんの存在が、わたしの官能を呼び起こし、身体の芯を締め付ける。

憂「お姉ちゃん……」

熱い吐息が口から零れる。
お姉ちゃんを抱きしめる腕の力を徐々に強くしていく。

わたしたち、姉妹の関係が変わっていく兆しを確かに感じた。

それは、新たな姉妹の始まりであり、同時に今までの姉妹のおしまいを意味した。


347 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 20:47:39.78 ID:N4xg/FRMO

唯「憂、一つ聞いてくれる?」

憂「なあに、お姉ちゃん? なんでも聞くよ」

唯「憂……」

憂「お姉ちゃん……」

唯「憂は、ムギちゃんがどうして憂が死んだってわかったか覚えてる?」

憂「忘れてないよ。紬さんが排水溝を掃除したのに、わたしの髪の毛が排水溝に絡まってたからでしょ?」

唯「実は、あれね……」

憂「うん」

唯「わたしがムギちゃんに言ったんだよ」

憂「なにを?」

唯「排水溝を掃除しておいたら、って」

肉の裂ける音が、頭蓋の中で反響した。視界が急に傾いていく。
なにが起きているのか理解できないのに、お姉ちゃんの腕が解かれているのだけはわかった。

わたしの首から血が噴出していた。




348 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 20:48:31.73 ID:YtLNRON90

うわあああああ


349 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 20:50:36.28 ID:lul4BClGP

凄惨すぎてワロエナイ


351 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 21:13:44.74 ID:N4xg/FRMO

身体が床に転がる。

首から溢れ零れる、粘度のある湯のような液体がが、床を、わたしの顔を身体を洗い流していく。
鉄錆の臭いが、脳内に蔓延してわたしの思考を赤く染め上げる。
伸ばした指が、ぴくぴくと痙攣する。
どうなっているの――疑問の声を出そうとしたが、出てきたのは切れ切れとした吐息だけ。

唯「憂、ごめんね。憂のことも騙してたんだったよ」

わたし、憂のこと大っ嫌いなんだよ。

酷く淡々とした声が、わたしの鼓膜に降りてくる。
どうして? どうしてお姉ちゃんがわたしを?
わたしはお姉ちゃんのことが好きだ。
そして、お姉ちゃんはわたしのことが好きなんだ。そうに違いないんだ。

なのに……どうして?

叫びたいのに声が出てこない。
ひゅっ、と短く細い息に首から血が噴き零れる不気味な音が重なる。

唯「 しんじゃえ 」

お姉ちゃんが鈍い輝きを振り上げる。

次の瞬間、肉が刃物にえぐられる音を聞いたと思った。

わたしは最後にもう一度だけ心の中で呟いた。

お姉ちゃん、と。


353 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 21:35:52.21 ID:N4xg/FRMO

【寝室:平沢唯】


憂の腹に突き刺したナイフを、勢いよく引き抜く。
えぐった肉をひくずるように、不快な音を立ててナイフは憂の身体から抜けた。

憂は目を見開いたまま、ぐったりとしていた。
出血のショックから、意識を失ったようだった。
そしてもう二度と起きることはない。
首からは未だに、泉のように血が滾々と湧出していた。
文字通りの血の海に、憂は仰向けになって横たわっている。

握っていたナイフを床に落とす。
手は憂の首から溢れた血で、赤く染まってベットリとしていた。

唯「……」

わたしは憂を殺した。
憎くて憎くて仕方のなかった妹を殺した。

けれども、身体中を駆け巡った全能感にも似た達成感は、憂の死体を見下ろしているうちに霧散した。


356 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 21:48:37.84 ID:N4xg/FRMO

梓「な、なにやってるんですか……」

ほとんど吃音と化した声。
それがあずにゃんの声だと気づくのにはしばらく時間が必要だった。
振り返ると、真っ青を通り越して、土気色をした顔を引き攣らせるあずにゃんがいた。
あずにゃんは、相変わらず床に座り込んでいた。

梓「……なんで……ゆ、唯先輩は憂を…………!」

唯「憎くて憎くて、殺したかったから」

わたしは即答する。
声は自分でも驚くほど、低く淡々としていた。

梓「い、意味がわかりません……なんで? どうして憂を殺したんですか?」

唯「だから言ってるじゃん。大大大大大っ嫌いだって。だから殺したんだよ」

梓「昨日、浴場で憂のこと、大好きって言ってたじゃないですか!」

あずにゃんが叫ぶ。あずにゃんの頬を涙が伝った。


360 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 22:01:32.60 ID:N4xg/FRMO

唯「違うよ」

梓「な、なにが違うって言うんですか!?」

唯「わたしは大好き、とは一言も言ってないよ。『大好きだった』って言ったんだよ」

大好きだった。そう。昔は本当に憂のことが大好きだった。
憂のためならなんでもしてあげようと思っていたし、憂のためなら死ねるとさえ思っていた。
けれども、わたしの憂に対する思いは、その憂のせいで打ち砕かれた。

唯「昨日、話したでしょ? わたしが昔、いじめられていたって」

梓「それがなんの関係が……」

唯「憂は、わたしをイジメから守ってくれた。少なくともわたしはそう思っていた」

でも違った。それはわたしの勘違いでしかなかった。

唯「でもね、実際は違ったんだよ」

梓「…………」


363 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 22:10:59.42 ID:N4xg/FRMO

唯「イジメの発端は、クラスで飼ってたハムスターが死んだことだったんだよ。

死んだ、というか、殺されてた。身体を握り潰されてた。

犯人はわたしってことになった。わたしはやってないのに。

でも、何人かのクラスメイトがわたしがハムスターを殺しているところを見たって言った。

それから、イジメが始まった。

色んな噂がたった。わたしのイジメはどんどんエスカレートしていった。

身体も、ランドセルも、教科書も、ノートもボロボロ。

酷い時だと、わたしが学校に行く前から、買ったばかりのノートが切り裂かれてることがあった」

梓「…………?」

あずにゃんの顔が、疑問に曇る。
が、すぐにわたしの言いたいことに気づいたのだろう、あずにゃんは言った。

梓「……ハムスターを殺したのは憂で、ノートを引き裂いたのも、憂だった……」

わたしは頷いた。


366 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 22:23:52.38 ID:N4xg/FRMO

唯「憂は本当にわたしのことが好きだったんだろうね」

梓「……だから、憂は唯先輩がイジメられるように仕向けた。そして……」

妹である自分だけが、姉であるわたしに関わりを持つ状態にし、あげく依存させた。

唯「憂はわたしが気づかないって思ってたんだろうね……まあ、実際、気づくのには十年近くかかったわけだけど」

そもそも、最初にこのことに気づいたのは和ちゃんで、和ちゃんに指摘されてからも、しばらくわたしは確信を持てないでいた。

唯「とにかく憂は、わたしのことが好きで好きで仕方なかったんだよ……
だからどんな手を使っても自分のものにしたがった」

梓「……」

唯「わたし、イジメられてから一年ぐらいの間、ずっと引きこもってたんだ。
でもね、徐々に和ちゃんのおかげでわたしは昔みたいに明るくなっていったんだよ。
それで、また学校にも通い出してね。でも、それが憂には気に入らなかったんだよ」

そして高校に入り、軽音部の一員になったことにより、憂はどんどん精神の安定を欠いていったのだろう。


368 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 22:33:34.34 ID:N4xg/FRMO

そして――二週間前、打ち上げの話をわたしが切り出したことにより、憂の精神的安定はついに崩壊した。

いや、前からそれらしい兆候はあった。

だが、この時の憂は今まで一番おかしくなっていた。

わたしを押し倒し、その上、打ち上げに行くなら軽音部のメンバーを殺すとさへ行った。
今まで我慢してきたものが、爆ぜた瞬間だった。


だが、それはわたしも同じだった。


わたしの胸の内側で、燻っていたドス黒い怒りは、あの時点で臨界点を越えようとしていた。
憂に押し倒され、軽音部のみんなを殺すと言われた瞬間、わたしの視界はカッ、と真っ赤に染まった。
そして、同時に思考はあまりにも冷たく働いていた。

どうやったら憂を、最大限まで絶望し、そして、殺せるのか。


367 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 22:26:26.02 ID:hSLWPhymP

あれ…?唯が他人にイジメられるのは良かったのかよ憂
まぁいいか



370 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 22:34:56.84 ID:XcWNnNv50

>>367
自分が幸せだったらそれでいい、ってな考えの持ち主だったんだろ、憂は



372 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 22:38:40.27 ID:hSLWPhymP

>>370
>お姉ちゃんより好きなものなどない
整合性がとれてない



373 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 22:41:25.61 ID:XcWNnNv50

憂の幸せは、
お姉ちゃんと一緒にいること、であって
お姉ちゃんが幸せであること、ではないんだよ。



374 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 22:45:53.95 ID:N4xg/FRMO

唯「憂が軽音部のみんなを死ぬほど憎んでたように、わたしも憂を殺したいほど憎んだ。
だから、憂の軽音部メンバーの殺人に協力した」

あずにゃんが怪訝そうに眉を顰める。

梓「なんで、憂を殺すのに澪先輩たちを巻き込んだんですか……憂を殺すだけなら……」

唯「最大まで絶望させて、その上で殺したかったから」

梓「……? 唯先輩はみなさんのことが好きじゃなかったんですか!?」

唯「好きだったよ。でも、憂を絶望させるためなら、死んでもいいと思った」

梓「っ……!」

あずにゃんがなにかを言おうとして、結局、なにも言わずに俯く。

あずにゃんの言いたいことはよくわかっている。

確かにみんなのことは大好きだった。
でも、憂を絶望させられるなら、死んでくれていいと思ったし、殺してもいいと思った。

ようは、優先順位の問題にすぎなかった。


381 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 23:04:43.36 ID:N4xg/FRMO

梓「それで……それで、唯先輩は満足したんですか?」

唯「どういう意味?」

梓「憂を絶望させて、殺して、それで満足できたんですか?」

唯「…………」


わたしは頷くことができなかった。

わたしは憂を殺せば、それで幸せになれると思っていた。
幸福感に満たされ、それでわたしの人生は変わる気がしていた。
確かに、憂を殺したことにより、わたしの胸を焦がしていた怒りの炎は既に消えつつあった。
だが、その代わりにわたしを突き動かしていたなにかも消えようとしていた。

辺りを見渡す。
凄惨たる殺人現場。血の臭いが堆積し、発酵した寝室に転がる二つの死体。
原形すら留めていない肉の塊。

荒涼とした心の隙間に、冷たい風が吹き抜けていく。
空しい。ただひたすら空しかった。

憂をようやく殺せたのに。


384 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 23:15:23.74 ID:N4xg/FRMO

わからなかった。

どうして憂を殺したのか、わからなかった。

いや、まだ憂を殺したことはいい。

けれども、そのために友達を三人も犠牲にしたのは、果たしてわたしにとっていいことなのだろうか。

梓「……唯先輩?」

わたしは、床に落ちていた包丁を拾い上げる。
血を浴びて鈍い輝きを放つ、包丁にわたしの顔が映る。仮面のような無表情をしていた。

わたしは、わたしが殺した妹に馬乗りになり、そのまま包丁を振り下ろす。
血糊が固まったせいでさっきよりも、腹の肉を切るには力が必要だった。
わたしは、何度も何度も包丁を振り下ろす。

肉を突き破る感触が、包丁を通して伝わってくる。
わたしはひたすら、憂の身体をナイフで突き刺した。


390 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 23:25:55.49 ID:N4xg/FRMO

どれほどその行為を繰り返したのかわからない。
血が床を濡らし、肉がえぐられる音が部屋にこだまする。
だが、どれほど憂を包丁で刺し続けたところで、気分が晴れることはなかった。

死体になった憂の顔は、驚きに目を見開いたまま固まったままだった。

殺しても死体を切り刻んでも、わたしの気持ちが満たされることはない。
それがわかった途端、わたしは自分の足許がふらつくのを感じた。

わたしは再び包丁を憂の身体から抜き取り、立ち上がる。

梓「……わたしも殺すんですか?」

わたしは無意識のうちにあずにゃんを見下ろしていた。
黒髪の下の顔が、無表情でわたしを見上げる。
わたしは包丁をゆっくりと振り上げる。なぜか、妙に重く感じられた。

梓「……そんなことをしてもなにも変わらないと思いますけど……」

唯「…………うるさい」

わたしは包丁を振り下ろした。


395 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 23:39:59.74 ID:N4xg/FRMO

梓「…………殺さないんですか?」

唯「…………」

振り下ろした包丁は、床に突き刺さって直立していた。

わたしはあずにゃんを殺すことができなかった。
いや、殺すことならきっと簡単にできるのだろう。
が、あずにゃんを殺して、その先にあるものと直面する勇気がわたしにはなかった。

不意に軽快なリズムがどこから鳴り出す。
場違いなそれは、血みどろになって床に横たわっているムギちゃんからだった。

梓「たぶん、迎えがこちらに来るという連絡でしょう」

わたしは耳を澄ましてみた。あれほど降っていた雨の音が聞こえない。
どうやら本当に雨は止んだみたいだった。


398 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 23:55:43.39 ID:N4xg/FRMO

異様な虚脱感に襲われてわたしは床に座り込んだ。
もう全てがどうしようもなかった。どうでもよかった。
後悔や悲しみが浮かぶこともなかった。ただ、心に大きな穴が開いたみたいに空しかった。

わたしはなにもしないべきだったのだろうか。
なにも知らずに、なにもせずに、借初めの幸せに浸っていればよかったのだろうか。
仲の良い姉妹を演じ、学校生活を満喫していれば、それで全てが丸く収まったのだろうか。
あるいは、和ちゃんが憂のことに気づかなければ、何事もなく終わったのだろうか。


――そもそもわたしが生きていなければ――


わたしは床に刺さった包丁を抜き取った。
血を吸って鈍く光る包丁を、わたしは自分の首に宛がう。

唯「あずにゃん」

あずにゃんはなにも答えない。
床に座ったまま、わたしをまっすぐ見据える。
わたしは縋るようにもう一度、あずにゃんに尋ねた。

唯「あずにゃん、わたしは死ぬべきなのかな?」

あずにゃんは、なにも答えなかった。


399 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 23:56:27.18 ID:N4xg/FRMO

おしまい


414 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 01:06:48.08 ID:+yasfzQ10

乙です!
これは梓視点の後日談が読みたいな



415 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 01:36:57.46 ID:awEEPtSM0

いちおつ!
凄まじいな軽音部




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[ 2010/09/24 15:14 ] けいおん!SS | TB(0) | CM(0)
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