素敵すぎるTOP絵をなななんとまたまたいただきました!2枚をランダム表示です!かわ唯!セシリアまどメガほむやすニャ!あっかりーん

刹那「インフィニット・ストラトス?」 後編

後編です
 
 
331 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 21:09:44.37 ID:ohhmPnGZ0

 一日が経っての放課後、肩を並べて刹那とシャルルは廊下を歩いていた。

「刹那、今日も特訓、するよね?」
「ああ。努力を怠れば、いずれ結果に現れてくる」
「第三アリーナで、代表候補生三人が模擬戦やってるって!」

 そこに、突然飛び込んでくる報せ。
 耳を疑うようなその話の真偽を、確かめる必要があった。 

「刹那」
「ああ、急ぐぞ」




332 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 21:12:41.25 ID:ohhmPnGZ0

 第三アリーナの観覧席に到着した二名は、目に飛び込んできた光景に、目を疑った。
 ISを装着したセシリアと鈴音が、一機のISの前で倒れ伏しているのだ。
 その黒い装甲は――――

「シュヴァルツェア・レーゲン……! ラウラ・ボーデヴィッヒか……!」

 状況証拠は、これでもかと言わんばかりに揃っていた。
 もはや、疑う余地も無い。

 満身創痍の状態ながら、連結させた双天牙月を杖に鈴音が立ち上がる。
 直後、甲龍の肩に設置された穴から、目に見えぬ衝撃が発射された。

「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの、停止結界の前ではな!」

 口端を吊り上げ、ラウラは嘲笑と共に宣言。
 そのまま、ISの装甲に覆われた右腕を掲げる。
 虹色の膜がラウラの腕を中心に広がって行き、そこに接触した砲弾が爆ぜる。
 ラウラの眼前、三十センチ程前で、甲龍の取っておきは玉砕したのだ。

(GNフィールドではない……! あれは……!)
「AICだ……!」
「AIC?」

 聞きなれぬ単語を、刹那は聞き返す。
 一度頷いてから、シャルルは口を開いた。

「シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代兵器、
 アクティブ・イナーシャル・キャンセラー……慣性停止能力だよ」


333 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 21:17:58.25 ID:ohhmPnGZ0

 ――――慣性停止能力。
 刹那には馴染みのない機能であるが、その名前から、大体の程度は知れた。
 おそらくは、シールドエネルギーを利用して力場を作成、
 その空間に接した物体の慣性を停止させてしまう能力。
 ビームであろうと実弾であろうと無効化できる、無敵の盾であろう。

 その城壁を貫く、あるいは迂回しない限り、勝ち目は無い。
 ならば、直線的な攻撃しか行えぬ甲龍では、相性の悪い相手と言えた。

 直接剣を交えた鈴音は、とっくにそのからくりに気づいているのだろう。
 打開策を練るべく、衝撃砲を低出力で連射。牽制しつつ、距離を取る。

 だが、それもラウラの予想の上。
 肩部装甲から分離したのは、小さな矢じりのような鋼鉄――――ペンデュラム。
 ワイヤー代わりに形を持ったエネルギーで肩と繋がったそれは、四つ共空中の鈴音を追う。

 鈴音も必死にかわしているが、ISの巨体で人間の手のひら大のそれを避け続けるのに無理が来た。
 右足へ、ヘビのごとくしなったワイヤーが巻きつけられる。

「ふん。この程度の仕上がりで第三世代兵器とは、笑わせる」

 戦闘ではなく、狩猟でもしているかのように力を抜いているラウラは、嘲りを含んだ笑いを投げかけた。


335 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 21:22:28.99 ID:ohhmPnGZ0

 しかし、一方もやられてばかりではない。

 その慢心を突くように、ビット、ブルー・ティアーズがシュヴァルツェア・レーゲンを囲う。
 一基一基に仕掛けられた銃口から、青白い閃光が放たれる。

 その攻撃すら見抜いていたのか、ラウラは地面を滑るように疾走。
 勢いを保ったまま、慣性を殺さずに上空へと移動する。

 ビームで追いきれぬのなら、誘導する兵器を使えばいい。
 そう考えたセシリアは、ブルー・ティアーズの腰に備え付けられた二基のミサイルを撃つ。

 自身を追跡するミサイルから逃れるべく、ラウラは大仰な軌道を描く。
 それこそ、セシリアの狙いであった。

 ラウラの移動先へ、ビットを待機させておいたのである。
 その事実を把握したラウラは、AICを起動。
 ビットの動きを止め、直撃を避ける。


336 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 21:26:57.91 ID:ohhmPnGZ0

「動きが止まりましたわね!」

 ライフルを構えながら、セシリアは告げた。
 そう、AICは多大な消耗をもたらす。高速で移動しながら使用できるものではないのだ。

 だが、ラウラがその弱点を補えないはずもなし。

「ふん。貴様もな」

 余裕の笑みを顔に貼り付けながら、ラウラはISに指示を下す。
 シュヴァルツェア・レーゲンの肩部装甲が、今度は横へスライド。
 刹那へ向け撃った、大型のレールカノンをセシリアへ放つ。

 スターライトmkⅢの光弾と、レールカノンの電磁弾がぶつかり合う。
 爆音と閃光に感覚を奪われつつ、ラウラはワイヤーを操作。
 その先にくくりつけられた甲龍が、釣られて動き。

 セシリアのブルー・ティアーズと激突、両者共々地面へ叩きつけられる。

 無様に転がる二機へ、ラウラは余裕の笑いを浮かべたまま接近。
 三メートルほどに距離を詰める。
 上空から見下ろしつつ、再びレールカノンを突きつけた。

 諦めるものか。
 鈴音が、衝撃砲へエネルギーを集め始める。

「甘いな。この状況でウェイトのある空間圧兵器を使うとは……」

 淡々と言葉を紡ぎながらも、ラウラはレールカノンの射撃準備を整えた。
 後はトリガーを引けば、二人まとめて始末できるだろう。


339 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 21:43:51.63 ID:ohhmPnGZ0

 だが、そうはいかない。
 その油断を活かし、セシリアが再びミサイルの発射口をラウラに向けた。

 ラウラの顔が、驚愕に染まる。
 しかし、逃げられぬ。

 この間合いで外すものか、セシリアはミサイルを撃ち出した。





 爆炎の中から、二人が姿を現す。
 手ひどい損傷を受けてはいるが、動けないほどではないようだ。

「この至近距離でミサイルだなんて……無茶するわねあんた」
「苦情は後で。でも、これなら確実にダメージは……」


340 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 21:48:18.95 ID:ohhmPnGZ0

 セシリアの言葉が、途切れた。
 吹いた風で、砂埃が掻き消える。
 その中から悠然と出現したシュヴァルツェア・レーゲンには、傷一つついていなかったのだ。

「……終わりか?」

 涼しい顔で、ラウラは手を組みながら問いかけた。

「ならば、私の番だ」

 肩部装甲が、パージ。
 ペンデュラムが、四つ、一斉に行動を開始する。

 そのうちの半数は、牽制。
 セシリアと鈴音の行動範囲を狭め、


 本命が、それぞれの首に巻きついた。

 ISのシールドを削るそれではなく、物理的な攻撃。
 呼吸をすることすらままならず、二人の動きが鈍る。

 それを、ラウラは見逃さない。
 急速で接近すると、両者に向け拳と蹴りの乱打を叩き込む。

 鈴音へ、加減の一切無い右ストレート。
 セシリアへ、サッカーボールを飛ばすような蹴り。

 軽量な機体故か、その一撃で転倒したセシリアを一度捨て置き、
 未だ倒れぬ鈴音へと左右のジャブ、右のアッパー、とどめとばかりにハイキック。


341 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 21:53:05.34 ID:ohhmPnGZ0

 苦悶の表情を見せる二人の機体の装甲が崩れ、それに合わせて赤枠の警告文がポップする。

 ――――警告
 ――――生命維持警告域通過

「ひどい……! あれじゃ、二人が……!」

 凄惨なその光景を目の当たりにして、シャルルが悲痛な声を上げる。
 確かに、客観的に見れば、あれはまさしく虐殺であった。
 圧倒的な暴力で、一方的に弱者をいたぶっている。

(同じだ……あの時と……)

 刹那の記憶が、よみがえった。
 彼が少年兵だった頃は、まさしく弱肉強食の世であったのだ。
 他人を謀り、裏切り、殺し、奪った。
 何かを得るために、何かを犠牲にして、生きてきた。

 その時と、同じだ。
 複数人で徒党を組み、殺す。
 弱者を狙い、なぶる。
 命乞いなど聞かず、悲鳴は無視して、罪悪感を飲み込み、奪いつくす。


 ならば、刹那・F・セイエイは何だ?
 何のために生きている? 刹那・F・セイエイが、成さなければならないことは?
 ――――世界の歪みを、断つことだ。


345 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 21:58:01.98 ID:ohhmPnGZ0

「エクシアを出す」
「刹那!?」
「シャルル、お前はここで待っていろ」

 シャルルに言い含め、刹那はISを展開。
 瞬きの間に、装着を終えた。

 観覧席とアリーナの間には、シールドが張ってある。
 エクシアの出力をもってすれば突破は可能だが、そうしては後々自らの首を絞めかねない。

(ティエリア、ここからアリーナへの最短経路は?)
≪今表示する。……これだ≫

 ティエリアの言葉に遅れて、モニターに地図が表示される。
 元々同じ施設内だ、出入り口の間隔はそう長くない。
 マップを頼りに非常用の避難口を渡れば、時間の短縮が図れるはずだ。

 GNドライヴから、粒子が噴出する。
 異常なまでの加速力で、刹那はアリーナ内を駆け抜けた。




347 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:03:03.25 ID:ohhmPnGZ0

 愉悦の笑みのまま、ラウラは右腕を振り上げる。
 その進路上にあるのは、鈴音の頭だ。
 この手を振り下ろせば、どうなるだろうか。
 そんなこと、ラウラはとうに承知している。


 だから、やる。
 渾身の力で、ラウラは拳を振るい――――



 かけて、横殴りに吹き飛ばされた。

「目標地点に到着。
 ……エクシア、武力介入を開始する」

 登場したのは、白と青の機体、ガンダムエクシア。
 武力で紛争を根絶するべく、この戦場に立ち入ったのだ。


349 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:08:19.95 ID:ohhmPnGZ0

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……何故、このような真似をした」
「二度も言わせるな。答えてやる義理などない」
「何故俺を憎む? その理由は何だ」
「貴様の脳は腐っているのか?」
「…………」
≪刹那、時間を稼ぐんだ。しばらくすれば教員が来る≫
(了解)
「……対話をする意思はないのか」
「くどい」
「俺たちは同じ人間……わかりあえるはずだ」
「貴様とわかりあう気は毛頭ない」

 答えながら、ラウラはレールカノンの銃口を刹那に向けた。
 一寸の間を作り、電磁砲弾が刹那に迫る。

 いかに弾速に優れようと、所詮は単発の直線。
 刹那が、それに当たる道理はない。
 足を後ろに引き、体をひねる。
 その最低限の動作で、刹那は敵弾を回避した。

 やはり、戦うほか無い。時間を稼ぐだけの消極的な戦いだが、やる以外に道は無いのだ。
 刹那はGNソードでラウラを狙い、ライフルモードでビームをばら撒く。

 ラウラとて、代表候補生。
 当てる気のない射撃に当たってやるほど、お人よしでもなければ、判断力が欠如してもいない。


353 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:13:32.97 ID:ohhmPnGZ0

 全弾をいなすと、ラウラはペンデュラムを刹那に伸ばす。
 先ほど目にした以上、刹那からすれば初見の武器ではない。

 下手に退避しようともせず、刹那は前進。
 四本のペンデュラムを避け、ラウラへ高速で接近する。

「直線的な行動だな……愚か者が」

 ラウラは鼻で笑うと、自身の正面へAICで力場を張った。
 そこへ、刹那が突っ込んでくる。GNソードの切っ先が、慣性停止空間へ刺し込まれる。

 途端、止まった。
 ラウラを両断するはずだったGNソードは、作り物の石膏のように固まってしまう。

「やはり敵ではないな……!
 この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、有象無象の一つでしかない……!」

 憎しみを露にしながら、ラウラは咆える。

「消えろ!」

 硬直した刹那に、レールカノンから弾丸が放たれる――――


355 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:18:08.94 ID:ohhmPnGZ0

「刹那、離れて!」

 直前、ラウラに降り注ぐ、実弾の雨。
 空中から降下してきているのは、両手にアサルトライフルを携えた山吹色のIS――――
 シャルル・デュノアのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。

 鳴り止まぬ銃声に、ラウラは刹那への攻撃を中断、上空を見上げ、対処を迫られる。

「雑魚が……!」

 苛立たしげに吐き捨てて、ラウラはレールカノンの照準を設定し直した。

「シャルル!」
『刹那! 二人を!』
「……了解!」

 口から出ようとする静止の言葉を飲み込み、刹那はセシリアと鈴音を回収に向かう。
 接近戦以外では選択肢の潰れるエクシアより、
 手数や手札で勝るラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの方が適任だ。

 ならば、優秀な加速力を持つエクシアは負傷者の救助に回るべきである。
 ISが強制解除されたらしい二人を脇に抱え、刹那はアリーナの出口へ急ぐ。

 逃がすものか、とラウラが刹那を狙うが、シャルルの妨害を受け、サイトが定められない。
 その間に刹那は出口へ抜け、保健室へと駆ける。

 保険医に二人を預け、刹那は全速力で来た道を引き返す。




356 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:23:05.14 ID:ohhmPnGZ0

 その機動性により、ISの戦闘は非常に高速だ。
 数分の攻防で決着がつくことも、珍しくはない。

「面白い……世代差と言うものを見せ付けてやろう」

 シャルルの左腕に巻き付けたペンデュラムを引き寄せながら、ラウラは嗜虐性を含んだ笑みを見せる。
 いかに限界までカスタムが施されていても、シャルルのISは旧式。
 旧世代機と最新鋭機では、有利不利の差が生まれて当然であった。

 最後の抵抗として、シャルルは右腕のアサルトライフルを乱射する。
 事も無げに、ラウラは同じ右腕をかざし、AICを使用。
 弾丸の慣性を奪うことで、自らへ襲い来る脅威を払いのけた。

 奮戦もむなしく、シャルルは少しずつラウラに引っ張られる。
 シュヴァルツェア・レーゲンの左腕に仕込まれたビームブレードが、その刀身を一際輝かせた。

「行くぞ!」

 凶刃が、シャルルに迫る。
 丁度その場に立ち会った刹那は、GNショートブレイドを抜刀し、

 視界の端に、黒い影を捉えた。




362 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:29:04.71 ID:ohhmPnGZ0

 甲高い金属音が、アリーナに反響する。
 その音の主は、シュヴァルツェア・レーゲンのビームブレードと――――


 織斑千冬の持つ、IS用の巨大な実体剣であった。

「教官……!?」
「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 生身で、ISと打ち合ったと言うのか。
 ISを装備した人間とそうでない人間の能力には、雲泥の差が生まれる。
 その道理を、千冬はこじ開けていた。
 ――――規格外すぎる、豪腕である。

「模擬戦をやるのは構わん。
 だが、生徒の命が危険に晒されるような事態になられては、教師として黙認しかねる。
 ……この戦いの決着は、学年別トーナメントでつけてもらおうか」
「教官がそうおっしゃるなら」

 千冬の言葉に、ラウラは素直に従った。
 ISを解除し、これ以上危害を加えないと言うことをアピールする。

「セイエイ、デュノア。お前達もそれでいいな」
「……問題は無い」
「……僕も、それで構いません」
「では、学年別トーナメントまで、私闘の一切を禁止する! 解散!」

 この場で最も強い人間の命令に、他の者はただ従うしかなかった。




366 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:34:01.50 ID:ohhmPnGZ0

「別に、助けてくれなくてよかったのに……」
「……あのまま続けていれば、勝ってましたわ」

 医務室に放り込まれ、包帯を身につけた状態でベッドに寝ている二人のビッグマウスに、
 刹那は思わず閉口した。
 先の勝負の結果は、誰の目にも明らかだ。
 二体一であるにも関わらず、ラウラはノーダメージで多勢を圧倒している。

「二人とも無理しちゃってぇ」

 かと言って、ここで事実を突きつけるのも酷だと思ったのだろう、
 シャルルは冗談半分に笑顔を飛ばしつつ、二人にカップを渡していく。

「……何故、ラウラ・ボーデヴィッヒと戦闘を行っていた」

 いつも通りの低いトーンのまま、刹那が二人に問いかける。
 鈴音は未だ納得がいっていない様子でふくれっ面を晒し、
 セシリアはバツが悪そうに、シーツで手慰みをした。

「あいつが挑発してきたからよ」
「ま、まあ、何と言いますか、女のプライドを侮辱されたから……ですわね」

 やはり、あのトゲトゲしい物言いが原因か。
 刹那だけでなく、周囲の人間全てに、あの敵対心を向けているのだろうか。
 その中でも、刹那が飛びぬけているのだろうが。


367 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:39:18.86 ID:ohhmPnGZ0

 しかし、刹那からすれば戦闘など望ましくないが、
 その要因の一つにラウラが入っている以上、大きな声では言えないことだった。
 取り付く島もないのだから、対話の場にすら持ち込めない。

 ならばどうするか、頭を悩ませる刹那の意識を浮上させたのは、地震の様な振動だった。
 がだん、と乱暴に扉が開かれ、数え切れないほどの数の女子生徒が、保健室に乱入してくる。

 彼女らの手には、一様にA4サイズの用紙が握られていた。
 押し付けられたうちの一枚を手に取り、刹那とシャルルはそれぞれ文章に目を通す。

『今月開催する学年別トーナメントでは、
 より実践的な模擬戦闘を行うため、二人組みでの参加を必須とする。
 なお、ペアが出来なかった者は、抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする
 締め切りは――――』
「とにかく! あたしと組もう、セイエイ君!」
「あたしと組んで、デュノア君~!」

 何やら嵐の様にやって来て嵐のように要求をする女子生徒に、シャルルはほとほと辟易した様子だ。
 その彼――――彼女からアイコンタクトを受け取り、刹那は頷いた。

「ごっ、ごめん、僕刹那と組むから……」

 シャルルの鶴の一声が響き、女子生徒はぞろぞろと撤収していく。

「まあ、そう言うことなら……」
「まあ、他の女子と組まれるよりはいいしね~」
「男同士って言うのも絵になるし……」

 聞き逃せぬに聞き逃せぬ発言を耳にしたが、刹那はそれを流すことにした。


368 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:42:43.30 ID:jaqFNR8z0

私を差し置いて逢瀬とは……水臭いぞ、少年!!


369 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:44:12.48 ID:ohhmPnGZ0

「ごめんね、刹那……」
「問題は無い。……戦果を期待する」

 しょぼくれた様子で謝ってくるシャルルに、刹那は気にするなと返答する。
 その様を呆然と見つめていた二人は、怪我をしているにも関わらず、声を張り上げた。

「ええっ!? ちょっと、この調子で組まれたんじゃ強い奴がいなくなっちゃうじゃない!」
「刹那さん、クラスメイトとしてここは私が――――」
「ダメですよ」

 保健室に足を踏み入れながら二人を制したのは、真耶だった。


370 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:49:07.42 ID:ohhmPnGZ0

 カルテを片手に、

「お二人のIS、ダメージレベルがCを越えています。
 トーナメント参加は許可できません」
「そんな……! あたし、充分戦えます!」
「私も納得できませんわ!」
「ダメと言ったらダメです。当分は修復に専念しないと、後々、重大な欠陥が生じますよ」

 珍しく語気を強めた真耶に、二人して口をつぐむ。
 自分の状態を把握できるのは自分自身だ。その事実は、自ら理解しているのだろう。

「…………」
「…………」

 ショックも大きいはずだ。
 下手に声はかけられない。

 刹那は真耶の横を通り、保健室を後にする。
 シャルルもそれに気づいて、小走りで後についた。




372 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:54:14.85 ID:ohhmPnGZ0

 寮への道を、とぼとぼと歩く。
 ラウラ・ボーデヴィッヒの、暴虐。
 あの行動を引き起こした一因として、刹那の名が並ぶのは避けられないだろう。
 ……また、刹那は誰かを傷つけてしまった。間接的であれど、そこに罪悪感を覚えずにはいられない。
 心なしか影をまとった刹那に、シャルルは上ずった声をかけた。

「あ、あのね、刹那」
「シャルル?」

 歩調を速めて、刹那の隣に並ぶ。
 一度目が合って、シャルルは足元へ視線を落とした。

「遅くなっちゃったけど……助けてくれて、ありがとう」

 保健室での、トーナメントペアのことか。
 口元を緩めているシャルルに、刹那は自然な態度で告げる。

「誰かとペアを組むことで、女性であることが発覚する恐れもあった。
 ……加えて、俺はシャルルを信頼している。パートナーとしては、申し分ない」
「うえぇっ!? あっ、ありがとう、刹那……」
「ああ」

 こくりと頷いて、刹那は再びシャルルを見やる。


377 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 22:59:07.32 ID:ohhmPnGZ0

「……二人の時は、自分を偽らなくてもいい」
「えっ?」
「性別のことだ。強要するつもりはないが」

 己の気持ちを抑えねばならないつらさを、刹那は知っている。
 不自由ながらにもがいた少年兵時代、刹那は窮屈な世界で過ごしていたのだ。

 そのことをつつかれても特別不快な念を抱いたりはしないのか、シャルルは自然な態度で言った。

「でも、ここに来る前に、正体がばれないように、
 って徹底的に男子の仕草や言葉づかいを覚えさせられたから……
 すぐには、直らないと思う」
「……そうか」
「でも、刹那が気になるなら……二人きりの時だけでも、女の子っぽく話せるように、頑張るけど」

 頬を紅潮させつつ、シャルルの視線が再び足元へ向かう。

「いや、無理をする必要はない。自分が楽な方でいい」
「そう……かな」
「信じられないもののための戦いは、己を歪ませるだけだ。……仮面は、いずれ壊れる」

 やや抽象的な刹那の言葉を、よくよく考えながら、シャルルは飲み込んでいく。
 要するに、自分のしたいようにしろ、と、刹那はそう言っているのだ。
 そうしなければ、自分の中の何かを見失ってしまう、とも。


378 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 23:01:51.69 ID:tU1IJEq70

なんでせっさんはこんなに詩人なの


384 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 23:05:41.94 ID:LG4ABEEWO

>>378
乙女座の私に影響を受けたとみた!



379 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 23:04:02.66 ID:ohhmPnGZ0

「気負いすぎる必要はない。
 ……お前は人とわかりあえるはずだ。お前を必要とする人間は、この世界にも必ずいる。
 ……少なくとも、俺がそうであるように」
「…………」
「シャルル?」
「……ありがとう、刹那。すごく、嬉しいよ」

 ――――今の、台詞。
 シャルルは、はじめて、自分が誰かに必要とされた気がした。
 彼女は、妾の子供である。どのような扱いを受けてきたかは、想像に難くない。
 ……率直に言えば、シャルルは望まれていない子供だった。

 IS学園に編入してからは、まあちやほやされていたものの、
 それは‘男性IS操縦者'と言う希少価値から来るものに過ぎない。
 そもそも、シャルルは男性ではない。性別を隠しての入学は、父の命令によるものである。
 そうして父がシャルルを動かしたのも、
 不要であったシャルルを実験台として利用し、たまたまIS適正があると発覚したからである。
 結局、シャルルの存在意義は、彼女と言う容器に張られたラベルとイコールなのだ。
 自身を認め、その存在を受け止めてくる人間を、シャルルは母以外に知らなかった。

 だが、刹那は違ったのだ。
 少し無骨なところもあるけれど、彼はとても優しい人だった。
 シャルルが女性であると知ってもなお、
 刹那は変わらずに、ただシャルルと言う一人の人間を見つめていた。


385 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 23:09:00.88 ID:ohhmPnGZ0

 生まれや性別、人種や肌の色で、刹那は他人を差別しない。
 対話の上では、そんなレッテルに意味などないからだ。
 わかり合い、分かち合い、未来へ進んでいく。手を取り合う理由は、銃を向ける理由よりも大きい。

 だから、刹那はシャルルを拒まなかった。
 その心根にある優しさに気づき、ただ人間同士として接していた。
 だから、刹那はシャルルを求める。彼女とならば、分かり合えるはずだから。
 他人を気遣える優しさが、いずれ世界の平和を成すとわかっているから。




387 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 23:14:51.53 ID:ohhmPnGZ0


 学年別トーナメント、当日。
 会場であるアリーナの観覧席に、これでもかと言うほどに人が詰め掛けている。
 その上、二階には前回にはなかった新しい席が用意されていた。
 つくりはシンプルながらも、各部が凝ってあるそれは、素人目にもなかなかの品であることが見て取れる。

 その様子を更衣室のモニターで眺めながら、刹那はシャルルの準備を待っていた。

「……来賓席か」
「うん。三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」

 着替えを終えたらしいシャルルが、部屋の奥から出てくる。

≪ここで優勝すれば、実質学年最強に等しい名誉が与えられる。
 油断はするなよ、刹那≫
(了解した)

 ティエリアからの念押しを受け、刹那は決意を固めた。
 戦いを好まない刹那だが、帰還のためだ。仕方が無い。
 それに、何より。


388 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 23:20:21.99 ID:ohhmPnGZ0

(ラウラ・ボーデヴィッヒは必ず勝ち上がってくる……)

 ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
 彼女の真意は、未だ汲み取れていない。
 この戦いで、何かわかることがあれば。刹那はそう願った。

「組み合わせが、決まったみたいだね」

 シャルルの声に、刹那は思考を切り上げ、電光掲示板に目をやる。
 一回戦、刹那たちの隣に並んだ相手、飛び込んできた名前は――――




「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」





464 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:01:18.74 ID:HdVj60/80

 試合開始前、選手はアリーナの中心で待機することになる。
 そこに、刹那たちはいた。
 当然、向かい合う敵手は――――ラウラ・ボーデヴィッヒ。

「一戦目で当たるとはな……待つ手間が省けたと言うものだ」
「…………」

 確かに、一回戦で当たれたのは幸運ではあった。
 先の模擬戦闘を見るに、ラウラの実力は本物である。
 加えて、あの攻撃性だ。大会と言う空気も相まって、生徒達も危機感が薄れている。死人が出かねない。
 それを阻止できたのは、不幸中の幸いであった。

 ラウラと刹那、シャルルの視線が交差する。
 そして、一人尋常でない疎外感と場違い感に苛まれている女子生徒は、
 涙目になりながらも敵意に耐えていた。


465 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:04:58.57 ID:IZsS/xC50

箒さんの代わりカワイソス


466 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:06:10.69 ID:HdVj60/80

 そんな連中をよそに、カウントダウンが開始される。
 ――――3。

「……ラウラ・ボーデヴィッヒの相手は俺がする」
「えっ、でも……」

 ――――2。

「勝算は有る。もう一人を頼む」

 ――――1。

「……わかった。でも、無理はしないでね」

 ――――0。


 電子音の音階が高くなり、それに合わせ、刹那とラウラはお互いに向け突撃。


468 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:11:26.24 ID:HdVj60/80

「叩きのめす!」
「駆逐する!」

 エクシアのGNソードが、太陽光を反射してきらめいた。
 その鋭い刃が、ラウラの喉仏へ迫る。
 急所へ直撃すれば、たちまちシールドゲージは空になるだろう。

 だが、そんなことはラウラとて百も承知だ。
 予定調和とばかりに右腕をかざし、AICを起動。

 進路上に展開されたそれへ、GNソードが突き刺さる。
 慣性を失い、エクシアの動きが止まった。

「開幕直後の先制攻撃か……分かりやすいな」

 ラウラが、口端を吊り上げる。
 ――――馬鹿が。
 口に出さずそう告げると、シュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンが稼動。
 フレキシブルに動かせるためか、その巨大な砲身を自在に操り、刹那へ銃口を押し付ける。

 エネルギーが充填され、レールカノンが放たれた。


471 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:16:42.45 ID:HdVj60/80

 刹那とて、AICの特性は把握している。
 右腕のGNソードを、刹那は躊躇なく‘取り外した’。

 そのまま地面を蹴り、空中へと舞い上がる。
 AIC力場に進入していたのは、GNソードの先端。
 その部位を外すことで、AIC力場から抜け出したのである。
 前回の戦闘で、有効範囲を見切っていたのが有効に働いた。

 ラウラの頭上を取った刹那は、GNロングブレイドを抜刀。
 GNロングブレイドは、GNソード以上の重量と刃渡りを誇る。
 切れ味では劣るが、斬馬刀の要領で叩き斬ることを目的とした兵装なため、デメリットとしては薄い。

 そのGNロングブレイドを、刹那は重力の加護を受けつつラウラに押し付ける。
 AICは、同時に二つ展開することが出来ない。多方向からの攻撃には、対処しきれないはずだ。

 ラウラは舌打ちをこぼすと、GNソードを捉えたAIC力場を解除。
 上空から襲い来る刹那へ、右腕のビームブレードを構え、迎撃。

 迎え撃たれることなど、刹那は予測できている。
 GNロングブレイドとビームブレードがぶつかり合うその寸前、刹那はGNビームサーベルを引き抜く。
 自らの得物を持ち替え、ラウラの虚を突き、GNビームサーベルを両肩に突き刺した。


473 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:18:49.61 ID:FsSuHKm70

さすが1級MA解体士


474 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:21:05.63 ID:HdVj60/80

 しかし、ラウラとて一流の兵士。揺さぶりにも動じることなく、
 ビームブレイドでロングブレイドを弾き、右肩を狙うビームサーベルとのつばぜり合いに持ち込む。
 結果、シュヴァルツェア・レーゲンの左肩に、エクシアのビームサーベルが差し込まれた。

 眉をひそめると、ラウラは刹那に向けAIC力場を発動しようとする。
 動きからそれを読み取った刹那は、
 ラウラの肩をえぐったままのビームサーベルを踏み抜き、中空へと退避した。
 AICの間合いを、大体ではあるが把握しているのだ。

 更に肩部装甲をえぐったビームサーベルを無造作に引っこ抜くと、
 ラウラは苛立ちを隠そうともせず、足元のGNソードとGNロングブレイドをまとめて蹴り飛ばす。
 勢いよく地面を転がったそれは、アリーナの壁にぶつかった。
 回収は難しいだろう。背を向けていては、レールカノンの餌食だ。




475 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:26:07.85 ID:HdVj60/80

「ねえ、あれ……」
「ええ、動きがよくなっていますわ……」

 観客席から試合を観戦している鈴音とセシリアの二人は、思わず刹那の動きに目を奪われていた。
 刹那の挙動が、前とは違うのだ。反応が早く、対応が正確になっている。

 そう、刹那はこれまでこなしたISでの戦闘は、模擬戦を含めれば相当な数に達するのだ。
 それほどの時間をかけたことで、刹那はようやくISに慣れた。
 セシリアの指導の下での特訓と、シャルルとの訓練が、実を結び始めたのである。

 そうなれば、刹那はガンダムマイスター。いくつもの戦場を渡り歩いた、戦いのプロフェッショナルだ。
 たかが十五年の歳月しか重ねていない小娘に、引けを取る要素がない。

 刹那の本領が、発揮されようとしていた。




477 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:31:15.60 ID:HdVj60/80

 今度はラウラから、刹那に吶喊してくる。
 直線を引くような、単純な軌道。しかし、それは恐ろしく早く、それでいて隙がない。
 高速で接近しながら、ビームブレードを横に振るう。

 しかし、ここは刹那の距離だ。
 エクシアの武器は、残り少ない。セブンソードのうち、四つを失っている。
 それ故、ラウラは攻め込んだのか。

 ならば、それは見当違いだ。


 ラウラのビームブレードと、刹那の‘GNソード’がぶつかり合う。
 突如として出現したGNソード。
 その事実に、ラウラの目が見開かれる。先ほど、ラウラは刹那の武器を移動させたはずなのに。

 その前提からして、間違っているのだ。遠くにやるだけでは、刹那の武器を奪えない。
 今やISを構成しているのは、ELSなのである。ELSはMSと同等の速度での単独行動が可能なのだ。
 刹那が手ずから拾わなくとも、武器の方からエクシアに戻ってくるのである。


478 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:38:43.59 ID:HdVj60/80

 その事実を、ラウラは知らなかった。知りえなかった。
 故に、動揺する。太刀筋が、わずかに鈍る。
 刹那が、それを見逃すはずもない。

 ビームブレードと打ち合ったGNソードをそのままに、刹那は空いた左手でGNショートブレイドを抜く。
 そのまま、無防備なラウラの鳩尾へ、ショートブレイドを突き立てる。

 それに気づいたラウラは、地面を蹴り後方へ撤退。
 体勢を立て直すべく、刹那から離れようとする。

 それを、刹那は許さない。
 GNショートブレイドを投擲し、自身も直進。二つの弾丸が、ラウラに迫る。

 咄嗟に、ラウラは正面へAIC力場を展開。
 GNショートブレイドが、慣性を失って落下する。


 GNショートブレイド、だけが。


479 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:43:02.47 ID:HdVj60/80

 後方から、気配。
 気づいても、振り返れない。
 ラウラは、たった今AICを使用したばかりである。

 だから、刹那は容赦しない。
 今が好機とばかりに、袈裟斬り、横薙ぎ、縦斬りの三連撃を、ラウラの背に刻み込む。

 ラウラは苦悶の表情を浮かべつつ、
 しかしされるがままではいてやらぬ、と、シュヴァルツェア・レーゲンの装甲の一部をパージ。
 四本のペンデュラムが、刹那に向かう。

 刹那は一時攻勢を緩め、空中へと上昇。
 円を描くように動き回り、ペンデュラムから逃れようとする。

 そこを、ラウラは狙う。
 レールカノンのサイトを定め、刹那の進路を予測。
 直撃するようにタイミングを計り、トリガーを引く――――


481 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 16:49:23.60 ID:HdVj60/80

 それが、出来ない。
 背中に、実弾の乱射。
 舌打ちをこぼしながらラウラが振り向けば、
 アサルトライフルを二丁構えたシャルルが、射撃体勢に入っていた。
 彼女の相手をしていた生徒は、既に戦闘続行は不能。
 刹那がラウラとやりあっている間に、シャルルは片をつけたのだ。
 
 銃に気を引かれたラウラは、ひとまずうっとうしいシャルルを仕留めようとターゲットを切り替え、

「お前の相手は、この俺だっ!」

 背後から、GNダガーの奇襲を受ける。
 シールドゲージが削れる音がするが、構わずラウラはシャルルに接近。
 シャルルもバックブーストで逃げ回るが、しかし、世代差が出る。
 スピードにおいては、シュヴァルツェア・レーゲンの方が上だ。
 AIC力場の中へ、シャルルが取り込まれ――――


489 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 17:11:56.80 ID:HdVj60/80

「刹那!」

 シャルルが、声を張り上げた。
 それは、助けを求める弱気なそれではない。
 ならば、これは、仕組まれた状況なのだ。

「オーバーブーストモードを使う! ティエリア!」
≪了解! GNドライヴの安全装置を解除する!≫

 ティエリアの手によって、太陽炉を抑えるパーツが外される。
 一時的ながらも最大出力を誇る、ガンダムエクシアの奥の手、オーバーブーストモード。

 GNソードを真っ直ぐに突きつけると、エクシアの背中が‘爆ぜた’。
 いや、違う。爆発したように見えたのだ。あれは、GN粒子の光。

 桁外れの加速力を得たエクシアが、ラウラを襲う。
 あの勢いでGNソードが突き刺されば、大破は免れまい。
 ラウラはシャルルのAIC力場を解き、刹那に対して自ら攻める。

 ラウラと刹那との間に、直線が結ばれた。
 当然、ラウラはAICを使用し――――


494 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 17:21:12.71 ID:HdVj60/80


 背後から、GNソードによる一撃を受けた。
 何故? ラウラが思考するが、しかし答えは出ない。
 糸の切れた人形のように、シュヴァルツェア・レーゲンが落下する。
 地面に墜落したそれは、アリーナを揺るがす轟音と、視界を覆う砂埃を立てた。


 何故、刹那はAICの影響を受けなかったのか。
 簡単な話である。
 後ろ側に、回り込んだだけなのだ。
 オーバーブーストモードであれば、エクシアの機動力は第四世代ガンダム――――
 ツインドライヴ搭載型に匹敵する。
 それに、MSで養われた刹那の操縦技術が加われば、
 敵機のシールドを避け、弱点に攻撃をねじ込むことなど容易い。


 ――――だが。途中で強引に進路変更した以上、破壊力は大きく削がれた。
 試合終了のアナウンスがないことからも、未だ敵機は健在であることが知れる。

(ティエリア、太陽炉は?)
≪……エクシアのGNドライヴはしばらく使えないだろう≫
(了解した。準備を頼む)
≪わかった。最中は無防備だ、警戒を≫




495 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 17:31:02.22 ID:HdVj60/80

 ――――私は、負けられない。負けるわけにはいかない!

「遺伝子強化試験体、C-0037。
 君の新たな識別記号は、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だよ。
 ……『ラウラ・ボーデヴィッヒ』」

 頭の中に、男の声が反響する。
 高くもない。低くもない。くせもない。感情もない。
 およそ個性と言うものを没した声が、頭の中で、ぼんやりと響く。


498 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 17:39:40.76 ID:HdVj60/80

 ――――私はただ、戦いのために作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、兵器であった。

 ――――私は優秀だった。最高レベルを維持し続けた。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、機械であった。

 ――――しかしそれは、世界最強の兵器、ISの出現までだった。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、軍人であった。

 ――――ただちに私にも、適合性向上のため、肉眼へのナノマシン移植手術が施された。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、機材であった。

 ――――しかし私の体は適応しきれず、その結果……出来損ないの烙印を押された。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、無用であった。

 ――――そんな時、あの人に出会った。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、


 人間に、なった。


501 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 17:46:50.34 ID:HdVj60/80

 ――――彼女は極めて有能な教官だった。
 織斑千冬は、希望であった。

 ――――私はIS専門となった部隊の中で、再び最強の座に君臨した。
 織斑千冬は、戦士であった。


「どうして、そこまで強いのですか? ……どうすれば、強くなれますか」
「……私は強くない。私では、敵わなかった者がいる」
(……違う。
 ……どうして、そんな弱気な顔をするのですか。
 私が憧れる貴方は、強く、凛々しく、堂々としているのに……)
「……ガンダムと言う言葉を、知っているか?」
「…………いえ」
「そいつさ。私では、勝てなかった。……それで、このザマだ」

 ――――ガンダム。

(……許せない。
 教官にそんな運命を強要した者を……
 ガンダムを、私は認めない……!)

 ――――刹那・F・セイエイ。
 ――――ガンダムエクシアの、パイロット!


506 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 17:57:44.39 ID:HdVj60/80

(力が欲しい……!)

「君は、より強い力が欲しいんだね?」

 頭の中に、男の声が反響する。
 高くもない。低くもない。くせもない。
 ――――感情は、あった。
 ほくそ笑んでいる。その嘲り、不愉快だ。しかし、構わない。例え無様であっても、力を手に入れる。

(……寄越せ、力を)

「……そうかい。素直なのは、嫌いじゃないよ」

(比類なき、最強を!)




509 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 18:01:13.18 ID:2vNYX4IG0

どう考えてもアイツにしか思えない


513 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 18:06:07.52 ID:HdVj60/80

 ラウラの叫びが、会場に木霊する。
 雷の様な放電現象が、シュヴァルツェア・レーゲンの着地点を中心に広がりだした。

 その衝撃で、砂塵が晴れる。
 姿を現したラウラは、しかし、予想と風貌を違えていた。

 ISが、溶けているのだ。
 粘土をこねているかのように、
 ぐねぐねと奇怪な動きを繰り返し、ラウラ・ボーデヴィッヒを取り込もうとしている。

「何……!?」

 その光景の異常性に、シャルルが声を漏らした。

(……ティエリア)
≪ああ、急ごう。……あれは、危険だ≫

 刹那も、シャルルと同じく、何かを感じていた。
 しかし、それは感覚的なものではない。
 形を持った、いやな予感。不安。
 ――――この世界に来てから一度として感知しなかった強い脳量子波を、ラウラが放っているのだ。


514 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 18:15:35.72 ID:HdVj60/80

 ラウラの顔は、恐怖に引きつっているように見えた。
 初めて見せる、弱い表情。では、あれはラウラの意思とは無関係だとでも言うのだろうか。

 その様を見守るしかない二人をよそに、ISだった黒い固形が、ラウラの全てを包み込んだ。
 彼女の白い肌も、銀色の髪も、黒どろどろとしたそれに覆われている。

 そのうち、ISだったそれは、ヒトガタを作り始めた。
 未だバランスの狂った異形だが、しかし周囲の人間に嫌悪感を抱かせるには充分にグロテスクだ。

 学園側も予想外の出来事だったのか、サイレンが鳴り始め、焦った様子のアナウンスが入る。

『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止!
 状況はレベルDと認定、鎮圧のため、統治部隊を送り込む。
 来賓、生徒はすぐに避難してください』

 観覧席のシェルターが閉まり、来賓席の人間が慌てて逃げ去っていく。
 それをものともせず、黒い粘着質のそれは、ついに成形を終えた。

 黒い、甲冑。
 シュヴァルツェア・レーゲンの剛健さは見る影もなく、
 ぬらりと光る体表が、言い知れぬおぞましさを感じさせた。
 その体長は、ISの二倍……先の襲撃者を彷彿とさせる外見だ。
 しかし、その造形は、どこか人間を――――それも、女性をイメージさせる。


518 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 18:24:40.24 ID:HdVj60/80

 あれは、本当にラウラ・ボーデヴィッヒなのか?
 刹那は、そう疑わずにはいられなかった。

 事態を収拾すべく、教員がISを装備してやって来る。
 ……黒いISは、動かない。

 警戒のためか、教員がライフルを構えた。


 そして、吹き飛ばされる。
 アリーナの壁へ、緑色のISが叩きつけられた。


 突然の攻撃に、教員らは反射的に武器を構える。
 黒いISが装備しているのは、一振りの日本刀だけだ。
 距離を取れば、一方的になぶれるはず。
 そこへ、

『待て、銃を捨てろ!』

 通信機越しに、千冬の指示が下される。
 教員らは、素直にそれに従った。敵の前で警戒態勢を解くなど自殺行為だが、
 千冬がそんなことをさせるわけがないと、信頼しているのだ。

 皆が銃を地面に置いた途端、黒い巨人の動きが止まる。


520 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 18:33:28.20 ID:HdVj60/80

(あの動き……敵対者にのみ反応しているのか?)

 刹那のそれはあくまで当て推量だが、そう推理することも出来た。
 しかし、真相は分からない。あの黒いISが、人語に対して応答するかどうかもわからないのだ。

(……ダブルオーライザーを出す)
≪了解……形態移行に移るぞ≫

 そこで刹那が取った選択肢は、トランザムバーストによる意思の伝達だった。
 あの中にラウラが残っているのなら、GN粒子を介して対話が行えるはずだ。

 刹那のISが発光、エクシアの装甲が、変形していく。
 白を中心としたカラーリングが、青を基調とした色彩へ。
 二つのGNドライヴが、肩へと配置される。
 セブンソードは、GNソードⅡとⅢへ形を変えた。

 光が収まり、刹那は早速トランザムのために操作を開始する。


521 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 18:40:45.17 ID:HdVj60/80

「刹那、そのIS……」
「説明は後だ。今は、あの機体と対話を試みる」
「対話……?」

 事情を知らないシャルルや教員は面食らっているようだが、構っている暇は無い。
 二つのGNドライヴが、共鳴を開始した。

≪ツインドライヴ、同調……やれ、刹那!≫
「トランザム、バースト!」

 GN粒子と、ダブルオーライザーの機体が、赤く染まる。
 刹那を中心に、高濃度の粒子空間が形成された。





525 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 18:48:57.13 ID:HdVj60/80

(私……私は……)

 ラウラの意識は、曖昧だった。
 それに合わせ、体もぼけっとしている。
 宇宙空間を漂っているような心地だった。

 何故、こんなことになっているのだろう。
 そう思ったが、ラウラはその疑問を放り投げてしまいそうになる。

 何だか、ものが考えられない。思考より、眠気が勝っているような状態だ。
 けれど、彼女は思う。何故? 何故だろう。

 やがて、ラウラは結論にたどり着いた。
 ――――感情だ。嫌だったから。

 ……感情。どんな感情だろうか。
 いや、感情?
 彼女の中の感情は、全て外に出て行ってしまったような気もするし、全部奥にしまいこんだような気もする。


528 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 18:57:27.75 ID:HdVj60/80

 それはいい。とにかく嫌だったのだ。
 嫌。嫌だった。何が嫌だった?

 教官が、あんな顔をするのが嫌だった。嫌だ。それは嫌だろう。
 何故、そうなる? 教官を沈ませて、心に傷跡を残したのは誰だ?

 段々と筋道が立ってきたラウラの思考。
 そして浮かんだのは、一人の男の顔。

「刹那・F・セイエイ……!」
「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 忽然と、この不思議な空間に出現した刹那へ向け、ラウラは敵意を露にする。
 教官に嫌な思いをさせるこいつが嫌いだったし、何より、ラウラは負けた。だから、余計に腹が立つ。

「……やはり、このISの中にいたのか」
「貴様、何を……!」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前と対話するために、俺はここへ来た」
「対話だと……!」
「ああ」
「私と教官の敵である貴様に、話すことなど……!」
「教官……織斑千冬か」

 何故、と言いかけて、ラウラは口をつぐむ。
 この場所は、どこか変だ。そんなつもりはないのに、自分の気持ちを、打ち明けてしまう。


532 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 19:04:47.15 ID:HdVj60/80

「教えてくれ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
 織斑千冬と俺の間に、一体何があった」
「貴様……! 白を切るつもりか!
 大会の前日、教官を襲ったお前が……!」
「大会……?」
「第二回IS世界大会だ……!
 教官は決勝まで勝ち残ったが、試合前日に何者かの襲撃を受けて重症を負い、不戦敗に終わった……!」
「…………」

 そんな事情があったのか。刹那は、今始めて千冬の過去を知った。
 千冬は、あまり自分のことを話したがらない。
 ましてや、汚点になりかねないそんな話、語りたくはないだろう。

「その襲撃者の名を、私は知っている……!
 ガンダム……! 貴様と同じISを装着した男が、教官の不意を打った!」
「ガンダム……!?」

 刹那がこの地球を訪れたのは、つい先日のことである。
 時間跳躍の技術は、西暦2364年現在、未だ開発されていない。


534 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 19:11:45.43 ID:HdVj60/80

「そのガンダムは、俺ではない」
「何を……!」
「ガンダムは、紛争を根絶するためにある。
 そのような世界を歪める行為を、ソレスタルビーイングは良しとしない」
「知ったことか!」
「お前は知らなければいけない。その怒りは、矛先を違えている。
 そのままでは憎しみが歪みとなり、やがて争いを生む……!」
「そうさせたのはお前だ! ガンダムと言う存在だ!」
「違う。俺たちは、未来を切り開くために戦っている」
「…………」

 刹那の低い声に、ラウラは押し黙った。 
 彼が嘘をついているわけではないと、直感的にわかったからだ。
 誰に説明されたわけではないが、ラウラはそう思った。
 この場所は、きっと、己の思いを伝えるためにある。

「……お前は戦いに執着しすぎている。
 悪意による戦いは、世界を歪めるだけでしかない……何が、お前をそうさせた」
「……私は」

 ラウラは、それだけ言って、黙った。
 しかし、刹那にはわかる。高濃度のGN粒子が散布されていれば、自然とわかるのだ。


535 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 19:18:07.22 ID:HdVj60/80

「お前は……超兵なのか」
「……似ている。貴様の考えている、それとな」

 超兵と言う言葉の意味を、ラウラは知らない。
 だが、刹那の意思を通して、理解できる。
 それと同じ原理で、刹那もラウラの生まれを把握したのだ。

「戦うだけの人生……俺もそうだ」
「…………」
「だが今は、そうでない自分がいる」

 刹那の目は、まっすぐだ。
 その瞳を、ラウラはじっと見つめた。自分と同じ、金色の虹彩。

「お前は変われ。
 お前なら、破壊するだけではなく、分かり合うことが出来るはずだ」
「……私には」
「出来る。お前は変わるんだ。
 未来と向き合うために、自分自身を変革させろ」
「……私は、強くない。
 教官を失い、矜持すら砕かれて……何を頼りに生きればいいんだ」
「ならば、生きるために戦え。
 自分自身のために、未来を切り開け。その先に、必ず何かがある。
 お前はまだ生きている。……生きているんだ。命がある限り、人は変わっていける」

 刹那自身が、そうしたように。
 ラウラも、きっと変われるはずなのだ。


539 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 19:26:00.55 ID:HdVj60/80

「……お前は、何故強くあろうとする。どうして、強い」
「俺は、託された……仲間の希望を、変革の意思を。だから、歩みは止めない。
 そのために俺は戦う。破壊するためではない、守るための戦いを成す」
「……守るための、戦い」

 ――――それはまるで、あの人のようだ。

「……オーバーロード……!?
 トランザムの限界時間か……」
「そうか……もう、終わるのだな」
「ああ。だが忘れるな、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
 お前は変われる……未来のために、変わるんだ」




542 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 19:33:40.98 ID:HdVj60/80

「私は……」

 覚醒したラウラ・ボーデヴィッヒは、ベッドに体を横たえていた。
 節々が、痛む。鍛えられているこの体が、こうまで疲労するとは。

「……何が、起きたのですか」

 ベッドのそばで椅子に腰掛ける千冬に、ラウラは問いかけた。
 表情を崩さないまま、千冬は答える。

「……一応重要案件である上に、機密事項なのだが……VTシステムを知っているな?」
「ヴァルキリー・トレース・システム……」
「そう。IS条約で、その研究はおろか、開発、使用、全てが禁止されている。
 ……それが、お前のISに積まれていた。精神状態、蓄積ダメージ、そして何より、操縦者の意思。
 ……いや、願望か。それらが揃うと、発動するようになっていたらしい」
「……私が……望んだからですね……」

 ラウラは、ぎゅっとシーツを握った。


545 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 19:39:35.25 ID:HdVj60/80

 弱ったその心を再び持ち直させるように、千冬は声を張る。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「はっ……はいっ」
「お前は誰だ」
「私は……」

 質問の意図を探りかねて、ラウラは口をつぐんだ。
 それが狙いだったのだろう、千冬は構わず続ける。

「誰でもないなら丁度いい。
 お前はこれから、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「えっ……」
「それから……お前は、私になれないぞ」

 そう言い残して、千冬は保健室から出て行く。
 扉が閉まる音がして、ラウラは力なく天井を見つめ。

 それから、笑った。腹の底から、笑っていた。




549 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 19:46:20.44 ID:HdVj60/80

 騒動が収拾して、しばらく。
 シャルルと食卓を囲みながら、刹那は学園側からの通知に目を通していた。

「結局、トーナメントは中止だって。でも個人データを取りたいから、一回戦は全部やるそうだよ」
「中止……」
「ちょっと残念?」

 シャルルの問いに、首を横へ振る。
 進んで戦いたくはないが、一応学園側への売り込みは必要だ。
 複雑な事情が絡み合っていたが、ここは一応否定の意を示しておいた。

 そこへ、明るい声が介入してくる。

「セイエイ君、デュノア君、朗報ですよ!」

 姿を現したのは、クラス副担任の真耶だった。

「今日は大変でしたね~。でも、二人の労をねぎらう素晴らしい場所が、今日から解禁になったのです!」
「場所……?」

 シャルルが聞き返すと、真耶は待ってましたとばかりに大げさな動きをとり、言った。

「男子の、大浴場なんです!」




551 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 19:52:44.85 ID:tfW2/qWm0

刹那さん童貞こじらせて最早仙人だから…


553 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 19:53:51.50 ID:HdVj60/80

≪刹那、錆びる心配はない。ゆっくりとつかっておけ≫
(……ああ)

 浴槽の中で、刹那はリラックスした体勢のまま風呂に入っていた。
 やろうと思えば人間と同じ体・感覚を復元できる以上、堪能しない手はない。

 しかし、こうも大きな風呂場に一人だと、どうにも寂しいものを感じる。
 せめてティエリアが体を持っていれば、いつも手間をかけてばかりな以上、よりくつろげただろうに。

≪僕のことは気にするな、感覚共有は行っている≫

 ティエリアの言に、そうか、と刹那は納得した。
 同一個体である以上、ティエリアと刹那の五感はリンクしている。
 やろうと思えば、ターミナルユニット内でも擬似的な入浴は可能なのだろう。

≪せっかくだ、もう少し――――≫
「お、お邪魔します……」
(敵襲……!?)
≪……何度も言うが、敵ではないぞ≫

 いきなり浴場へ介入してきた、第三者。今の声は、


554 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 19:58:53.32 ID:5oXJ1qgq0

刹那は敵襲以外言えないのかwwww


555 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:00:46.74 ID:HdVj60/80

「シャルル……!? 何故ここに!」
「僕が一緒だと……嫌?」
「そうではない。理由を――――」
「やっぱ、その……お風呂に入ってみようかな、って。迷惑なら、あがるよ?」
「……なら、俺は上がる」
「ああっ、待って! 話が、あるんだ……大事なことだから、刹那にも聞いてほしい」

 呼び止められて、刹那は動きを止めた。
 ゆっくりと、再びお湯に体を沈めると、シャルルへ背中を向けるよう方向を変える。

 シャルルはぎこちない足取りで浴槽に足を入れると、そっと刹那の近くで腰を下ろす。
 丁度、背中合わせの形になった。

「その……前に言ってたことなんだけど」
「……学園に残ると言う話か?」
「そう、それ。……僕ね、ここにいようと思う。刹那がいるから、僕はここにいたいと思えるんだよ?
 ……それに、ね? もう一つ、決めたんだ。僕の、在り方を」

 背中合わせのまま、シャルルは言葉を紡いでいく。


556 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:07:06.00 ID:HdVj60/80

「在り方?」
「僕の事を、これから『シャルロット』って呼んでくれる?
 ……二人きりの時だけでいいから」
「シャルロット……本名か?」
「そう。僕の名前……お母さんがくれた、本当の名前」

 刹那は、本名を明かしていない。
 ソラン・イブラヒム――――その名は、ガンダムマイスターとなった時に捨てたのだ。
 だから、刹那は刹那のままだ。そのことを、刹那は今更口にするまいと決めた。

「……了解した。これからもよろしく頼む、シャルロット」
「……うん」

 シャルルは――――シャルロットは、小さな声で、けれどしっかりと返事をした。




573 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:22:29.50 ID:HdVj60/80

 翌日。

「…………今日は、皆さんに、転校生を紹介します」

 加減を悟ったのか、真耶は言いづらくも教師の職務を果たしていた。
 しかし、当の着任者はまったく意に介さず。

 つかつかと教壇の隣に歩み寄り、にっこりと笑みを浮かべて名乗った。

「シャルロット・デュノアです。みなさん、改めてよろしくお願いします!」

 束ねられた金髪、西洋人らしい碧眼、そして柔らかい物腰と声。
 一人の少女が、そこに立っていた。

 当然、皆から困惑の声が上がる。

「ええっとぉ……デュノア君は、デュノアさん、と言うことでした……」

 事態を収めようと思ったらしい真耶は、しかし全く収められていない。

「……は? つまりデュノア君って女?」
「おかしいと思った。美少年じゃなくて、美少女だったってわけね」
「セイエイ君、あんなに仲良かったのに知らないってことは……
 ちょっと待って、昨日は確か、男子が大浴場使ったわよね!」

 クラスの女子からしっちゃかめっちゃかに言葉を投げつけられて、刹那は対応に困った。
 シャルロットから入って来たわけだが、まさか、それを口にするわけにもいくまい。
 仕方が無いと、刹那は口をつぐんだまま耐えた。


577 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:28:09.98 ID:HdVj60/80

 すると、遠くから、教室の後ろの方に飾ってあった花瓶が刹那に迫る。
 誰かが投げたのか、あるいは騒ぎで飛んできたのか。

 ともあれ、キャッチするべく刹那は身構えて――――

 窓から飛び込んできたラウラが、その花瓶を停止させた。
 見れば、ラウラはISをまとっている。
 それによるAIC、慣性停止能力。即ち絶対防御。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

 予想外のエトランゼの出現に、刹那が小さく息を漏らす。
 ラウラの怪我は軽くないと言われて、例の事件以降、刹那は顔を合わせていないのだ。
 どう出る、と警戒する刹那の胸倉へ、ラウラは手を伸ばした。

 それを、刹那は避ける。
 足を後方へ移動させ、軸をずらして回避。

 またも、ラウラが右手を刹那に伸ばす。
 刹那は地面を蹴り、間合いを保って回避。

 再び、ラウラが右手を刹那に伸ばす。
 刹那はしゃがみ、高度を違えさせることで回避。

 そのまま、両者にらみ合う。
 それが数秒続いて、ラウラは告げた。

「……悪いようにはしない。じっとしていろ」


579 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:30:23.18 ID:eDmmqArC0

せっさんwww


586 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:34:00.22 ID:HdVj60/80

 そう言われて、刹那は立ち上がり、身動きをやめた。
 対話は、信じあうことから始まる。
 この前のトランザムバーストから、ラウラはどこか雰囲気を変えた。ならば、賭ける価値はある。

 ゆっくりと、ラウラの右手が刹那の襟元を掴む。
 そのまま、手元へと引き寄せると、

 ラウラは、刹那にそっと口付けた。


(何……!?)
≪刹那!?≫

 予想の斜め上の行動に、刹那はただただ驚愕するばかりである。
 ネーナ・トリニティにも同じようなことをやられたが、まさか、こんな、いきなり。

 一呼吸の間、じっと唇を寄せていたラウラは勢いよく顔を離し、頬を赤く染め、

「こっ、この間の謝罪だ。
 それと、お前は私の嫁にする。隣で、私が変わっていくのを見届けてもらう!
 ……決定事項だ! 異論は認めん!」


588 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:34:27.52 ID:V6T4sBX4O

机が並び生徒もいる教室で華麗な回避を決めるせっさんまじ魔法使い


595 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:40:32.65 ID:P43tGHY20

せっさんは愛も憎しみも乗り越えて大賢者となったのだ


596 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:40:33.93 ID:HdVj60/80

 その堂々極まりないブライダル宣言に、教室へ動揺が走り、


「ええええええええええーーーーーーーっ!?」
「嘘おおおおおおおおおーーーーーーーっ!?」
「はあああああああああーーーーーーーっ!?」
「なんとぉーーーーーーーーーーーーーっ!?」
「オ・ノーレェェェェェーーーーーーーッ!!」

 学園中が、震撼した。



~次回予告~

 諸君、ついに訪れたぞ、熱く燃える夏……太陽の季節が!
 夏と言えば当然海……臨海学校だ!
 しかし、水中行動すら可能とは。汎用性が高すぎるぞ、ガンダム!

 明日は日曜日! 買出しに行く必要があると見た!
 フラッグファイターの諸君、急ぐぞ!
 ビーチバレーで、ガンダムとの決着をつける!

 盟友と編み出した我が奥義『グラハムスペシャル・アンドサーブ』、とくと見るがいい!
 次回、‘海は即ち乙女座の地’。体の端からにじみ出た欲望を、断ち切れ、ガンダム!



601 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:42:23.08 ID:HERcj1WD0

教室に変な人が2名混じってるんだけど


605 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:45:54.73 ID:sv1KWK8Ki

シン「そういえば、俺も乙女座だったな…。」


606 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:46:40.33 ID:HdVj60/80

ここからは9話になります正直おまけみたいなものなのでおふざけ半分です
致命的な誤字をやらかした時点でもうアレですが、
設定の崩壊など認めるものか! と言うゲルマン忍者の皆さんはただちに撤退してください



 満月が、空の頂を制するころ。
 夜の帳が下りたこともあって、刹那は睡眠をとるべくベッドで横になっていた。

 実際、金属体である刹那に‘眠る'と言う行為は必要ないが、
 常に不眠不休で完全徹夜となると、精神的な負担が大きくなってしまう。

 ELSと融合しながらも人間の心を保ったままの刹那には、このような休息の時間が必要なのだ。
 それはティエリアも同じらしく、ターミナルユニットは現在省電力――――スリープモードに入っている。


611 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:51:57.70 ID:HdVj60/80


 そこへ、誰かがやって来る。
 眠ったままの刹那へ、そろり、そろりと近づく者が一人。

 足音と気配を殺しながら、その人物は、ゆっくりとベッドのそばに到達し、布団に手をかけて、



 眉間に、拳銃を押し付けられた。


「何者だ」

 ギラつく警戒の目を向けながら、刹那は銃口を向けられてひるんだ相手をベッドの中に放り込み、
 ソレスタルビーイングで鍛えさせられた拘束術を用いて捕縛する。

 人間が押し付けられ、スプリングがきしむ音がした。


613 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:59:17.53 ID:HdVj60/80


「何を求めてここに――――」
「……ご、強引だな」

 聞き覚えのある声に、刹那が疑念を抱く。
 何をしに来たと言うのか。
 掴んだ敵手の両腕はそのままに、刹那は自身がとっ捕まえた不審者の顔を確認する。

 その人物は、

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ?」
「……ま、まあ……私も、やぶさかではないが」

 妙に恥ずかしがっている様子を見せる、‘全裸の’代表候補生であった。




615 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:02:15.96 ID:IZsS/xC50

破廉恥だぞ少年!


616 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:04:18.17 ID:Z9PMuxQeO

破廉恥だなっ!ガンダム!


617 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:04:19.21 ID:sv1KWK8Ki

貴様は歪んでいる!!


618 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:05:19.06 ID:HdVj60/80


「……質問は後だ。まずは服を着ろ」

 ラウラを開放してやりながら、刹那は口を開く。
 その言葉を受けて、ベッドの上に座りなおしたラウラは小首をかしげた。

「夫婦とは、互いに包み隠さぬものだと聞いたぞ」
「夫婦?」
「お前は私の嫁だ」

 要領を得ないラウラの言動に、刹那は思わず困惑する。
 こいつは、一体何を言っている?

「俺はお前と婚約した覚えが無い」
「婚約などしなくてもいい。
……それに、日本では、気に入った相手を‘俺の嫁'とか‘自分の嫁'とか言うそうだが」
(……沙慈・クロスロードは、ルイス・ハレヴィのことを‘僕の嫁’と呼んではいなかったが)
≪当然だ。婚姻を結んでいないのだから≫

 睡眠を阻害されたからか、どことなく冷めた様子のティエリアが返答した。
 それを受けて、自身の知識が間違っていないことを確認すると、刹那は単語を吟味しながら続ける。


619 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:07:20.35 ID:Z9PMuxQeO

僕と婚約してIS適合者になってよ!


620 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:08:24.80 ID:eDmmqArC0

>>619
(腹パン)



623 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:11:13.67 ID:HdVj60/80

「だが、俺は男だ。嫁と言う呼称は相応しくない」
「問題は無い。私がそう呼びたいからそう呼んでいる」
「…………」

 きっぱりと言い切ったラウラに、刹那は言葉を失った。
 こう言った相手の説得は、スメラギ・李・ノリエガやロックオン・ストラトスが得意とすることだ。
 刹那自身、弁舌に秀でているわけでもない。

「…………私は、同じベッドで寝たいのだ。ダメか?」
「駄目だ」

 ラウラの懇願を、刹那は一刀両断する。
 ええっそんなぁと口にせずとも顔に書いてあるような悲しみを背負ったらしいラウラは、
 しょぼくれて下を向いた。

 しかし、刹那とて分別はある。
 男女七歳にして席を同じうせず、年頃の女性が男性と同衾するなど、大問題だ。
 そもそも、そう言った行為は両者の合意の上で行われるものである。

 ラウラが部屋へと帰るのを待つ刹那は、


630 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:17:45.79 ID:HdVj60/80

「…………」

 しかししょんぼりとした様子で打ちひしがれながらもベッドから降りないのを見て、
 この娘は意外と強情なのだな、と色々なものを諦めた。


「……ベッドならもう一つある。俺はそちらで寝る、それは自由に使っていい」

 譲歩として、刹那は今まで自身が使っていたベッドを明け渡し、
 そそくさともう一つの寝床へもぐりこむ。
 ラウラの気配が動かなくなったのを見て、まあベッドが別ならばいいかと適当に結論づけた刹那は、

 しかし、ラウラが再びこちらのベッドに入り込もうとしているのに気づいて、跳ね起きた。


「あっ…………」
「…………」

 無言で抗議の視線を送ると、ラウラは重い足取りでベッドに戻る。
 それを見届けて、刹那は身を横たえると、目を閉じた。




631 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:19:25.59 ID:haGFixks0

ガノタを卒業し
厨二病も卒業し
人間すら卒業しても
童貞だけは卒業出来なかった刹那さんの童貞力の高さは流石やでぇ



635 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:23:28.34 ID:HdVj60/80

 二分後。

 ベッドに人が近づくのを感じ取り、刹那は上体を起こした。

「…………」
「…………」

 すごすごと、ラウラは退散していく。




 三分後。

「…………」
「…………」





 四分後。

「…………」
「…………」




636 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:23:47.21 ID:2vNYX4IG0

小動物みたいだなラウラwwww


638 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:25:11.78 ID:X0Ef5BaX0

ラウラ「抱きしめたいな…ガンダム!」


647 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:28:59.79 ID:HdVj60/80

 五分後。
 間隔を開けながらも全くこりる様子の無いラウラに、刹那はいい加減諦観の念を抱いた。
 ベッドの半分を開けてやり、自身は奥側に移動する。

 刹那が自らそうしたことに気づいたラウラは、ぱっと笑顔の花を開かせると、
 意気揚々とベッドに介入してきた。

 刹那の背中へくっつくと、ラウラは満足したのか、数分の後に寝息を立て始める。


 まるで子供だ、と刹那は思った。
 刹那と閨を同じにして一歩抜きん出ようとしているのではなく、
 誰かが傍にいることに安堵を覚えているように見える。
 それは、親がいなければ不安で眠ることもままならない、幼い子供に似ていた。

(……そうか)

 ラウラ・ボーデヴィッヒは、軍事施設の出身である。
 トランザムバーストで意思疎通を行った際の記憶から推察するに、きっと、彼女に親は無いのだろう。
 遺伝子提供者はいるが、きっと、彼女を理解し、支え、面倒を見る者は、いなかったと見ていい。
 だからこそ、彼女は狭い自らの世界に訪れた新風、千冬に憧れを抱いたのだろうが。

 ――――親が、無い。
 その事実に、刹那は己の中で重いものがこみ上げるのを感じた。


656 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:32:01.97 ID:9DzZWJbo0

さすが見た目は子供、頭脳はじいさん
親御心が芽生えてらっしゃる



657 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:34:01.61 ID:HdVj60/80

 自らの手を、血で汚したあの日。
 拳銃を手に、人を殺したあの日。
 悲鳴と助けを踏みにじり、悪意で自分を歪めたあの日。

 払拭しがたい、傷であった。


 自らの手で親の存在を断った刹那と、生まれたその日から親をなくしたラウラ。
 二人はどこか似ているように見えて、全く違う。
 けれど、同じような何かを抱えていた。

 振動で起きないようにラウラの手を優しく離してやって、刹那は起き上がる。
 彼女の寝顔は、穏やかだった。いい夢を、見ていればよいが。
 そっと、髪を撫でてやる。さらさらとした銀髪が、窓から差し込む月光を弾いていた。

 ――――今日ぐらいは、一緒でもいいだろう。
 ラウラの寝顔にどこか安心を感じた刹那は、そう決めた。


 一応言っておくが、刹那のそれは恋愛感情ではなく父性である。
 実年齢七十三歳のおじいさんである刹那は、未だ女性の心理をいまいちわかっていなかった。




661 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:38:51.43 ID:HSK4aJ0S0

流石ELSと対話しきった人は一味違うで


663 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:41:10.09 ID:HdVj60/80

「少年、朝だ。日光が清清しいぞ、そろそろ起きたまえ」
「刹那さん? 朝ごはん、食べないんですか?」

 ノックの音とくぐもった声で、刹那は目を覚ました。
 いつの間にか、眠りに落ちてしまったようだ。
 隣を見やると、ラウラは未だ夢の中である。

 ベッドから出ようとして、刹那はふとひっかかりを感じた。
 ラウラが、腕にひっしとしがみついているのである。
 眠っているにも関わらず、その力は強い。流石は超兵――厳密には違うが――だ。
 刹那の腕力なら外せないことはないだろうが、
 女性が相手となっては、強引に引っぺがすのも気が引けた。

 そんな事情は知りもしない生徒の面々は、ドアをもう一度ノック。

「少年? 返事をしろ、少年。まだ眠っているのか?」
「そろそろ起きないと、遅刻しちゃいますよ」
「……もしや、体調不良でベッドから起き上がれないのかもしれん。
 これは強硬手段もやむなしだ、ドアを開けるぞ」
「いいんですか、そんなことしちゃって?」
「男の誓いに、訂正は無い。……失礼」

 ドアを解除したらしい(あくまで)『女子生徒の集団』が、部屋に入ってくる。
 彼女らの目に入ったのは、寝巻き姿の刹那と、その刹那と同じベッドで眠る‘全裸の’ラウラ。


666 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:44:10.89 ID:h8GbUFQh0

いや女子ってwwww


670 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:45:12.96 ID:nnYVuZKB0

ハム子さんに期待


674 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:47:03.54 ID:HdVj60/80

「なっ……破廉恥だぞ、少年!」
「そんな……おかしいよ、おかしいですよ、こんな!」
「何なんだよこれは、男女がベッドでギシギシやってさ!
 父さん……僕どうすればいいんだ!」
「信じるんだ……自分が成すべきと思ったことを!
 ここは男子の部屋……女子は、ここから出て行けぇーっ!」

 いや、お前も女子だろ。刹那は少年のような茶髪の少女を見てそう思った。 
 その騒ぎで意識を半覚醒させたらしいラウラは緩慢な動作で起き上がり、寝ぼけ眼をこすると、

「むぅ……無作法なやつだな。夫婦の寝室に」
「夫婦……!?」
「なんとぉーっ!」
「十五で結婚なんか、出来るものかよ!」
「嘘なんじゃないか! 自分で自分を騙して、分かったようなこと言って!
 あなたは、何も見えていないんだ!」
「正しさが人を救うとは限らないぞ……刹那は私の嫁だ」
「君は女の子だ! 嫁なんか作れない! そうやって自分の見たいものだけ見て、すべてを否定して!」
「あんたは一体、何なんだぁーっ!」

 何の論争をしてるんだこいつらは、と呆れつつも、刹那はこの状況をどう突破したものか頭をひねった。




676 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:48:24.00 ID:2g/HwuPs0

ナントイウガノタ学園
そのうち妙に悟りきったやつとかでてくるんだろうか



687 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:53:42.64 ID:HdVj60/80

 モノレール、車内。
 時代的には進んだ技術のためか、内部のデザインもなかなか洗練されている。
 ただ、それはあくまで一般的な観点からの話であって、刹那からすれば、やや前時代的ではあったが。

 そんな中、刹那とシャルロットは二人掛の椅子に、並び合って座っていた。
 目的は、買い物。それも、衣類を、である。

「でも刹那、どうして僕だけ誘ってくれたの?」
「臨海学校が近い。俺も水着を購入する必要があった」
「それで、僕も?」
「ああ。女子用のそれを持っていない、と前に言っていただろう?」
「そう言えば、そうだったような」

 顎に手を添えて、シャルロットは過去の思い出を振り返っているらしい。
 ふむふむと声を漏らすシャルロットに、刹那が続ける。

「見立てを頼みたかったのもある。俺はこう言った事柄に疎い。……シャルロットならば信頼できる」
「あ、今……」

 シャルロット。
 刹那にそう呼ばれて、シャルロットは何だか気恥ずかしくなった。
 少しくすぐったいけれど、嬉しい。

「どうした?」
「うっ、ううん。任せてよ」

 誤魔化しの笑みを浮かべながら、シャルロットは頷いた。





688 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:56:29.69 ID:BvnF5H3LO

好意もたれてるのわかってて黙殺できるのがすごい


689 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:56:49.52 ID:2g/HwuPs0

>>688
分かってないんだろ



696 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 21:59:36.86 ID:HdVj60/80

 駅に到着して、二人はモノレールから降りると、目的地に向かって歩き出す。


 その姿を、遠方から隠れて見守る影があった。

(あれ……もしかして、デートじゃありませんの?)

 自販機を盾にするようにしつつ、刹那とシャルロットを目で追っているのは、
 イギリスの代表候補生――――セシリア・オルコットその人だ。
 何やら刹那が外に出かけると言う話を耳にして、ばれないよう尾行してきたはいいものの……

(くうう……まさか、デュノアさんが女の子だったなんて……
 しかも刹那さんといやに親しげですし、まさか、既にただならぬ関係なのでは……!?)
「楽しそうだな」

 嫉妬心と興味で心をたぎらせるセシリアの背に、声がかかる。
 どこかで聞いた声、振り返れば、そこにいたのはドイツの代表候補生、
 自称刹那を嫁にした女、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

「ラウラさん!」
「そう警戒するな……今のところ、お前に危害を加えるつもりはない」
「信じられるものですか!」
「……すまなかった」

 突然頭を下げるラウラに、セシリアは間の抜けた声を上げそうになった。
 意図を探りかねて呆然とするセシリアへ、説明するべく、ラウラは口を働かせる。


702 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:05:32.42 ID:HdVj60/80

「……刹那から、対話は友好と和平によって成されると教えられた。
 私のしたことは、今更消しようが無い。
 ……許してくれなくともいい。ただ、謝りたかった」
「…………」

 本当に、その罪悪感を晴らす言葉が思いつかないのだろう。
 優れないその表情から、セシリアはラウラが本気であることを悟った。

「……別に、構いませんわ。気にしてはおりませんもの」
「…………」
「それより、貴方と刹那さんはどのような関係ですの?この前は、キ、キスもしてらっしゃいましたし」
「刹那は……私の、嫁だ」
「はっ?」

 呆気に取られるセシリアをさておき、ラウラは一歩前に進み出ると、

「話は後だ。……すまないが、私は急ぎの用がある」
「急ぎの用?」
「あの二人に混ざる」

 平然とそう答えたラウラを、セシリアは慌てた様子で引き止めた。

「おっ、お待ちください! 未知数の敵と戦うのなら、情報収集を行ってからにするべきですわ!
 ここは追跡の後、二人がどのような状態にあるのかを見極めるべきです!」
「……なるほど。一理あるな」

 納得したらしいラウラは、セシリアと一時的に共同戦線を結んだ。




708 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:11:32.52 ID:HdVj60/80

 大型のショッピングモールに到達した二人は、会話を交わしつつ歩を進めていく。

「シャルロット」
「うん? なあに、刹那」
「既に、女性であることは周知の事実のはずだ。
 周囲の人間からからシャルロットの名前で呼ばれても――――」
「えっ……」
「シャルロット?」
「う、ううん、何でもない。続けて?」

 話の途中で見るからに落胆したシャルロットに、
 刹那は自身の言動が理由なのだと理解して、原因を探り始める。
 名称の変更。これか。シャルロットの名を、学園の人間には呼ばれたくないのか?
 いや、まさか。自己紹介でそう名乗っているし、何よりシャルロットは彼女の本名。拒む理由は薄い。


714 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:17:06.10 ID:HdVj60/80

 ならば、刹那自身に何か要因があるのか。
 今のところ、刹那は彼女をシャルロットと呼んでいるが、

 ――――まさか。

(……ティエリア、一つ確認したい)

 自身の思考を確たるものとすべく、相棒へ相談をもちかける。
 意見を述べた刹那に、ティエリアは肯定の意を示した。
 それを受けて、刹那は話を再開する。

「周囲の人間も、お前のことをシャルロットと呼ぶようになるだろう。
 だから、何か別の呼び名を考えたい」
「えっ?」
「デュノア社の人間を除けば、打ち明けてくれたのは俺が始めてだったな。
 それの、記念だ」
「いっ、いいの?」
「ああ。構わない」

 こう言った気遣いは、ロックオンかミレイナの仕事だとは思うのだが。
 七十三歳になって一応の心配りを習得した刹那は、どうにかシャルロットの機微を掴むことに成功していた。


720 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:23:00.13 ID:HdVj60/80

 さて、あだ名か。
 命名という行為自体、刹那にはあまり経験がないが、有る程度のルールがあることぐらいは承知している。
 原型を留めつつ、あくまで呼びやすく親しみやすく、あまり別の意味を持たないようにすること。
 なかなかハードルは高いが、

≪あくまで人名だ。名前の発音から考えて、短縮するのが最善だろう≫

 ティエリアのアドバイスを参考に、刹那は数秒逡巡した。イノベイターとなった彼の脳内演算力は、高い。

「……シャル、はどうだ」
「……シャル。うん、いいよ、すごくいいよ!」

 確かめるように呟いて、シャルロット――――シャルは喜びを込めた声を上げた。

(シャル……シャルかぁ……これって、ちょっとは特別な存在、ってことだよね?)

 舞い上がっている彼女だが、名前の大切さは、刹那にもわかるところである。


722 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:26:17.91 ID:D4RNfjY90

私にはあだ名どころか名前すら呼んでくれなかったな、少年!


723 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:27:16.18 ID:aOxEOeSv0

>>722
あの男があだ名だろ



728 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:29:45.72 ID:HdVj60/80

 前述の通り、彼の本名は刹那・F・セイエイではない。
 ソラン・イブラヒム――――その名を、親から授かっていた。
 ……その親を、刹那は躊躇いなく殺したが。

 だから、今の彼はガンダムマイスターの刹那・F・セイエイなのだ。
 その名前に、刹那は愛着があったし、何より、
 既に逝ってしまった者たちは、きっと彼のことを刹那・F・セイエイと記憶しているだろう。
 だから、刹那は刹那だ。背負ってきたもののために、彼は刹那・F・セイエイであり続ける。
 きっと、これからも。





735 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:35:03.74 ID:HdVj60/80

 ショッピングモールの内装は、なかなかに小洒落れていた。
 西洋の雰囲気と評するべきだろうか、建造物のデザインや質感、
 そして店の様相も、日本のそれとは一味違っている。

 だが。それよりも、刹那は気になることがあった。

(……つけられている?)

 後方から、刹那を追う気配があるのだ。
 しかし、その姿は見えない。気のせいだろうと見過ごしてしまいかねないほどに、存在感が希薄である。

 ソレスタルビーイングの一員として様々な訓練を受けた刹那の目で、捉えられぬほどの潜伏技術。
 人が多すぎて、脳量子波での探知も活かせない。

「刹那?」

 前を行くシャルが、刹那に振り返る。
 歩調を速め、シャルと並ぶと、刹那はボリュームを絞った声でシャルに告げた。

(「……何者かに尾行されている」)
(「尾行……?」)
(「ああ。正体まではわからないが、確かだ」)

 釣られて、シャルルが後ろを向く。
 いけない、そんな行動をしては、感づいたことを気取られてしまう。

(「シャル、止め――――」)
(「……わかったよ、その、尾行してる人たちの正体」)
(「何?」)
(「こっちへ」)


739 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:42:53.61 ID:HdVj60/80

 刹那の手を取り、シャルは早歩きで右手の店に入る。
 季節柄もあってか、そこは丁度水着の専門店だった。
 きっと、秋が来れば撤退し、違う店が顔を出すのだろう。

 つかつかと歩き、シャルルは水着を一枚手にすると、
 店員の目をかいくぐって刹那を試着室に押し込み、自身もそこに入る。
 脱いだ靴を回収しながら、周囲に聞こえないよう音量を下げたまま、刹那はシャルに問いかけた。

(「シャル?」)
(「向こうもこっちを見失ったはず……ここでやりすごそう」)
(「……了解。お前を信じる」)

 いつになく真剣なシャルの瞳に、冗談でないことを認識すると、刹那は息を潜めて壁にもたれかかる。
 シャルも、動きを止めて外の状況を探っているようだ。

 そこへ、

「お客様? どうかなさいましたか?」

 店員の、声がかかった。

(「うそっ!? ど、どうしよう、刹那!」)
(「俺はカーテンの影に身を隠す。恥ずかしいから半開きと言うことにすれば、多少はフォローが利くはずだ」)
(「わっ、わかった。……ってことはここで着替えなきゃいけないんじゃ……!」)
(「……危険だが、俺が外に出る」)
(「だっ、駄目だよそれじゃあ! 見つかっちゃう!」)
(「他に方法がない」)
(「でっ、でも……ああもう、わかった! 着替える!」)
(「しかしそれでは……!」)
(「もう迷ってられない!」)

 上着に手をかけ、一息に脱いだシャルから、刹那は目をそらした。


742 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:48:31.35 ID:HdVj60/80

 音を立てないよう後ろを振り向き、
 刹那は意識を外にやるべくティエリアとのコミュニケーションを開始する。

(ティエリア、今日の天気は?)
≪晴れ時々曇り、降水確率二十パーセント。
 気温・湿度共に高くもなく低くもない。過ごしやすい一日と言えるだろう≫
(すまない、助かる。……明日の天気は?)
≪晴れ、降水確率十パーセント。気温と湿度は今日より高くなる≫
(そうか)

 ティエリアの天気予報に集中しつつ、刹那はシャルの着替えを待つ。
 刹那が四日後の天気を聞くと同時、シャルは水着に着替え終わったようだ。

(「お、終わったよ。どう、かな……?」)

 上下共に黄色のビキニだが、下にはパレオが巻かれている。
 髪の色と合わせたのだろう。統一感があり、すっきりとした印象だ。

(「よく似合っている」)
(「えへへ……」)
(「だが、急がなければ怪しまれる。悪いが……」)
(「あっ、ご、ごめん!」)

 カーテンを半分ほど開き、刹那が身を置くスペースを作りながら、シャルルは店員の前に姿を晒した。
 シャルよりも前に入った者がずっとそこを利用していたと思っていたのだろう、
 店員は自身の勘違いを詫びて、そそくさと退散していった。

(「……シャル、タイミングは任せる」)
(「うん……オッケー、今!」)
(「了解!」)

 シャルの声にあわせ、刹那が試着室から飛び出し、男性用水着のコーナーへ移動する。
 それを見届けてから、シャルは制服を着用しなおした。


744 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:52:16.54 ID:hAEEqhHi0

なんという僧職系男子


746 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:53:58.98 ID:H2iiTnso0

せっさんマジ紳士


747 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 22:54:05.27 ID:HdVj60/80



 水着店を後にして、セシリアとラウラはとぼとぼとショッピングモール内を歩いていた。

「……結局刹那さんは見失ってしまいましたし……これからどうしましょう」
「……私は水着を買う必要がある。失礼する」

 短くまとめて、ラウラは目当ての店に足を向ける。

「なら、私も一緒に――――」

 それに気づいたセシリアが誘いをもちかけるものの、
 ラウラは首を横に振った。

「いや、すまない。一人で決めたいのだ」
「そうですか……なら、私は寮に戻っていますわ」

 最後にため息をこぼして、セシリアはモノレールの乗り場へときびすを返す。
 その背を見送り、ラウラは先ほどの――――水着専門店に入店する。
 女性用のそれらが並ぶ地点まで向かうと、ラウラはポケットから長方形のデバイスを取り出した。
 指先でちょいちょいと操作すると、電話と同じように耳に当てる。
 数回のコールの後、繋がった音を耳にして、ラウラは通話を開始した。

「クラリッサ、私だ。緊急事態発生」
『ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長。何か問題が起きたのですか?』

 相手は、ラウラの率いる隊、
 『黒ウサギ部隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)』の副隊長、クラリッサ・ハルフォーフ。


750 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:00:02.84 ID:HdVj60/80

「う、うむ。例の、刹那・F・セイエイのことなのだが」
『ああ、隊長が好意を寄せていると言う、彼ですか』
「そうだ。お前が教えてくれたところの、いわゆる私の嫁だ。
 ……実は今度、臨海学校と言うものに行くことになったのだが」

 前置きをそこそこに、ラウラは本題を切り出す。

「どのような水着を選べばよいか、選択基準がわからん。そちらの指示を仰ぎたいのだが」
『了解しました。この黒ウサギ部隊は、常に隊長と共にあります。
 ……ちなみに、現在隊長が所有しておられる装備は?』
「学校指定の水着が、一着のみだ」
『ぐぅっ……! 何をバカなことを!
 確か、IS学園は旧型スクール水着でしたね。それも、悪くはないでしょう。
 だがっ……しかしそれでは……!』
「それでは?」
『イロモノの域を出ない!』

 ちなみにこのクラリッサ大尉、日本のアニメや漫画を愛好しているためか、
 しばしば間違った知識をラウラに植えつけることがある。
 そこに一切の悪意はないのだが。

「ならば、どうする……?」

 何故か焦った様子のラウラへ、クラリッサは余裕の笑いで返すと、

『私に秘策があります』

 そう、返答したのだった。


751 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:00:47.04 ID:2g/HwuPs0

…一夏ならともかく刹那にはなりやっても無駄なんじゃ…


753 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:06:24.58 ID:j5/r0YlnO

>>751
いや、待て
ガンダム柄の水着ならあるいは…



754 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:06:29.15 ID:HdVj60/80



 臨海学校当日。

「今十一時で~す!
 夕方までは自由行動、夕食に遅れないように旅館に戻ること。いいですね~!?」
「「「「は~い!」」」」
「任務了解」

 真耶の指示に、生徒全員が元気よく了承の返事をして、それぞれ思い思いの行動に移る。

「少年、少しいいか」

 声に振り向くと、そこに立っていたのは金髪の……少、女?
 ともかく、乙女座が一人立っていた。
 手にしているのは、バレー用のボールだ。

「私は、君との果し合いを所望する!」
「果し合い……?」
「そうだ、青い海、白い雲、そして快晴の天気!
 あえて言おう、絶好のビーチバレー日和であると!」
「ビーチバレー……!」
「嫌とは言わせんよ。私にも意地がある」
「……わかった。その挑戦を受けよう」
「ちょっと、刹那さん!?」

 何やら愛を越え憎しみを超越し宿命となった勝負に臨もうとする刹那は、ふと名前を呼ばれた。
 声の主は、青いビキニとパレオ姿の――
 奇しくも色以外がシャルと同じの水着を着用した――セシリア・オルコット。
 小脇にビーチパラソルとシートを抱えつつ、ふくれっ面で刹那を見やっている。


758 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:11:12.76 ID:2g/HwuPs0

落ち着きがなく我慢弱い女か


759 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:11:59.49 ID:HdVj60/80

「バスの中で私と約束したのを忘れましたの?」

 約束。確か、サンオイルを塗ると約束をしていた。
 先ほどから姿が見えなかった――荷物を取りにいっていたのだろう――
 ため、遅れるのだろうと踏んでいたのだ。

「水入り……いや、先約か。
 男の誓いに訂正は無い。彼女を優先したまえ」
「……すまない」
「どうと言うことはないさ。しかし私は我慢弱い。急げよ、少年」
「……了解」

 刹那と乙女座の会話の最中に、セシリアはシートを敷き、パラソルを広げると、その上に寝そべって、
 サンオイルの瓶を横に置いた。

「さあ刹那さん、お願いしますわ」
「わかった」

 瓶の蓋を取り、オイルを手に空ける。両手で暖めてから、ゆっくりと丁寧に、セシリアの肌に手を滑らせた。

「んっ……」

 セシリアから、悩ましげな声が上がる。
 構わず、刹那は続けた。


766 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:18:15.57 ID:HdVj60/80

「あっ……」

 繰り返すたびに、セシリアは乱れていく。ような気がする。
 その様を見守る他の女子生徒は、小さく息を吐き出しながらも目を離さない。

「うわぁ~、気持ちよさそ~」
「こっ、こっちまで、ドキドキしちゃう……」
「セシリア、後であたしにもサンオイル貸してよね!」

 ギャラリーのあおりを受けてか、セシリアの息が荒くなる。
 腑に落ちない何かを感じながらも、刹那はただ手を動かし、背中へとサンオイルを塗り終えた。

「ミッションの八十パーセントを達成……これで終了か」
「いえ、せっかくですし、手の届かないところは、全部お願いしますぅ……」
「……ミッションプランを変更……フェイズ2へ移行する。俺はどこまでやればいい?」
「足と、その……お尻も……」
「くぅっ……堪忍袋の緒が切れた! 許さんぞ代表候補生!」

 そこで、乙女座が咆えた!


767 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:20:06.35 ID:5oXJ1qgq0

鈴のかわりに乙女座がwwww


769 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:20:51.74 ID:2g/HwuPs0

乙女座の違和感のなさは異常


772 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:24:03.99 ID:HdVj60/80

「破廉恥であるぞ! その上約束を違えるか!」
「いえ、そんな……これも約束のうち……」
「増援を!」
「はっ?」
「女ァ!」

 乙女座の要請に答え、おでこを出した少年が介入する。
 後ろで結われた辮髪(べんぱつ)から見るに中国人なのだろうが、現地の人間だろうか。

「弱いものが海に来るな! ……サリィ!」
「はいはい」

 呼ばれて、少年の後ろから女性が姿を現した。
 ロールした金髪から見るに、セシリアと同郷かもしれない。

「ごめんなさいね、あの人たち、我慢弱いから。ここは抑えてあげて」
「はっ、はあ……」

 登場してきて場を収めようとする大人の女性に、セシリアはただ頷くほかない。

「私が代わりをやるから。ダメ?」
「いっ、いえいえ、大変光栄ですわ!」
「よし、行くぞ少年! 今から我々が進むのは勝負の世界……修羅の道だ!」

 刹那の手を引き、乙女座は砂浜を行く。




774 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:25:43.34 ID:eDmmqArC0

が、ガンダム学院……


780 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:30:02.99 ID:HdVj60/80

 バレーボール会場。

「さて、もしよろしければ、皆様方にこのビーチバレーをご説明させて頂きましょう」

 いつの間にやら音頭を取る審判――――赤いスーツの男の席が置かれ、刹那はバレーボールに臨んでいた。

「ルールは簡単、二体二、二十一点選手の三セットマッチ。
 戦って、戦って、戦って抜いて、スポーツマンシップに溢れた試合にして頂きたいものです」
「干渉、手助け、一切不要……と言いたいところだがな。相方を頼むぞ」
「任務、了解」
「それでは、ビーチレバレーファイトォ、レディーッ」
「お前が俺のパートナーか……よろしく頼む」
「ああ。……流派東方不敗は王者の風。例えビーチバレーであろうと、全力で行くぞ」
「ゴォーッ!」




790 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:36:56.50 ID:HdVj60/80

 あっちも人間、チャンスはあるはずだ……その希望の言葉は、しかし圧倒的な実力の前でかき消された。

「武士道とは……!」
「俺の……俺のミスだ……!」
「いいファイトだった。またやろう」
「これが……ビーチバレーだと言うのか……!?」

 刹那は、戦慄した。
 あの超人的な高速戦闘が、ビーチバレー……?

「少年、君の勝ちだ」
「ああ……」

 乙女座の視線を受けて、刹那は思わず目をそらした。
 まあ、トスなりレシーブなりを担当したものの、
 刹那側が大勝を収めた理由は、やはりあの赤い外套の男に他ならない。
 
「……今度は、純粋な手合わせを望みたいところだ」
「……了解した。お前が納得するまで、俺は戦い続けよう」
「その旨をよしとする。……感謝するぞ、少年」

 爽やかにそう言い残し、乙女座は会場を後にした。




795 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:42:21.36 ID:HdVj60/80

「刹那、ここにいたんだ!」

 遠方から、シャルが歩いてくる。
 刹那を探していたのだろうか。

 手を振って返そうとして、刹那は、
 彼女の隣に全身にバスタオルを巻いた奇怪かつ面妖な生物がいることに気づいて、思わず動きを止めた。

 先日と同じ水着を着用しているシャルに比べてやけに重装備なそれは、
 傍から見れば妖怪か何かに写るだろう。

「……ラウラ、何をしている?」
「あ、わかるんだ」

 なんとなく、息遣いのようなものでわかる。
 そう言っても納得されないだろうと自ら結論に至ったので、刹那は頷くに留めておいた。
 そんな刹那を横目に、シャルはラウラの肩へそっと手を置いて、

「ほら、刹那に見せたら? 大丈夫だよ」
「だっ、大丈夫かどうかは私が決める」

 震えた声のラウラに、シャルは耳元へ口を寄せつつささやいた。

(「せっかく水着に着替えたんだから、刹那に見てもらわないと」)
(「まっ、待て。私にも、心の準備と言うものがあって……」)
(「ふぅ~ん。だったら、僕だけ刹那と海で遊んじゃうけど……いいのかなぁ~?」)
(「そっ、それはダメだ! ……ええい!」)


800 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:48:22.14 ID:HdVj60/80

 踏ん切りがついたのか、ラウラは自らバスタオルを外す。
 空中へ白い布が舞い、中から姿を現した。

 黒の、フリルがついたビキニタイプの水着。やや面積が小さい。
 それに加えて、ラウラ自身、髪型も変えていた。左右で縛ってあるのだ。ツインテールというやつか。

「わっ、笑いたければ、笑うがいい……」

 そっぽを見ながら、ラウラは縮こまった。
 自信がないのだろう、もじもじと、落ち着きなく人差し指同士を合わせている。

「おかしなところなんてないよね、刹那?」
「ああ……いいと思う」
「そっ、そうか。悪くないか。……嬉しいぞ」

 照れて、ラウラが下を向く。
 それと同時、クラスの女子が声を張り上げていた。

「セイエイ君、ビーチバレーやろうよ!」

 もう一度か、と思わないでもないが、先ほどの試合、刹那は何もしていない。
 せっかくだ、と、刹那は二人に目をやり、

「人数は同じだ。……いけるか?」

 二人が首肯したのを確認して、刹那は駆け出した。
 この臨海学校、いい思い出になりそうだ。




802 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:49:48.49 ID:mQBH+MYgO

なにこのせっさんの青春白書


803 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 23:51:09.13 ID:HdVj60/80

と言うわけで「俺たちの満足は、これからだ!」END。

あと>>780あたりでビーチバレーがちょいちょいバレーボールになってるけど見逃して

いやあ、長かった
付き合ってくれた人たちに、感謝を。ありがとうございます。


848 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 00:49:31.01 ID:02Kksjee0

乙乙クアンタ


851 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 01:14:37.23 ID:DYI0zqrQO

この気持ち正しく愛だ!


564 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/04(金) 20:13:52.42 ID:WKWQpYbC0

      )、._人_人__,.イ.、._人_人_人人_人
/////<´ クアンタアアアアァァァ───ッ!!! > //////
///// ⌒ v'⌒ヽr -、_  ,r v'⌒ヽr ' ⌒ ⌒ヽr ' ⌒ / //// ///
// //////:::::::::::::::::::::::::::::::::l:::::::::::、:.:.:.`丶、:::::::ヽ:\:.:.:.:`ー一ッ'/ ///
// / / //:::::::::::::::::/::.:./:l:.:.:.l:.::.:::::.:::.:.:‐-:.:.:_\:.:.:.ヽ:.ヽ―… ´ // ///
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、___/::.:}.:.:::./:.::l:./!:.ハ:.lヽ:.:.ヽ:.:.:.::.:.:.:ハ:.:ト、.:|:.:::`ヽ:::l;.::::', // /////
\:.:.:.:.:.:.:/.:.:.:.{:.:.::レ l:l ヘl  、:.:::l:.:.:.:.::../ |/ ヽ:!:.::.:.l:.}.::|l:::.:::| // /////
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